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苦尽甘来
清風が宣言した通り、初合宿は見事な晴天に恵まれた。
嬉しすぎて前の夜眠れなかった志翠が朝からすでに眠そうな目をしていて、清風はそんなところまで予言通りにするなよと想定内すぎる親友を生暖かい目で見つめた。
「ねぇ、昼寝ならしても良い?」
「赤ちゃんか」
「だって……このままじゃ日付が変わる頃にはもう俺寝てる、絶対。断言できる」
「断言しなくて良い」
合宿の集合時間は午後4時。
表向きは天文部OBという名の、実際は子供たちの見張り役を受け持つ成人男性5名を含め参加者は全19名。ちなみに1年生は清風と志翠だけである。
夏の本格的な合宿とは違い、今回は近場で行う簡単なもので、高校から少し離れた山の中腹に建つ小学校校舎で行われる。天体観察にはもってこいの立地で、まわりに障害物や邪魔な光が少なく、近くの学区にある中高の天文部がよく世話になっている人気スポットだ。
たが、それに対して子供の人口は年々減り続けており、今や旧校舎はほぼ使用されていない。
一旦、日の入り前に小学校へ全員集まり、屋上に仮眠用のテントを幾つか張り、緊急避難通路の確認をして再び夜の21時半に集合が決まった。
志翠は集合時間の1時間前まで部屋主に断ることなく清風のベッドを占領してすやすやと眠り続けた。いい加減怒るのも面倒で、清風はベッドを背もたれにして新しい小説を黙々と読み進めた。
小説がほぼ後半のクライマックスに差し掛かったあたりで突然背後からつむじをつつかれ、清風は冗談みたいに尻が跳ねた。
「志翠!」
頭を抑えながら振り返ると、性懲りもなく犯人はしてやったりと大爆笑している。
「すごっ、今一瞬体浮いてたよ、清風っ、アハハ!」
「アハハじゃないっ、お前今晩覚えてろよ! トイレ行った瞬間電気消して逃げてやるからな!」
「先にネタバレしてどーすんのさあ」
「いつ、どのタイミングでされるのかをずっと怯えてろ」
「うわぁ、やることが粘質〜」
「やることがガキのお前に言われたくない」
「清風が言ったんだよ、清風の知ってる俺でいろって」
「……そうだな、すでに後悔し始めてるよ」
口数の減っていた親友が少しずつ前の温度を取り戻していくような感覚に、志翠の心は勝手に弾んでいた。
このままゆっくり、目の前の溝もいつか消えてしまえば良いのに──
流れ星にした願い事が、本当に叶えば良いのに──と、志翠は言葉にはせずに顔を綻ばせたまま、清風の怒っている顔を黙って見つめた。
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21時半に再び戻って来た小学校校舎は、夕方の顔から大きく一変し、ひどく不気味だというのが志翠の率直な感想だった。
使用する側の校舎は、かなりの割合で電気が点いているにも関わらず、志翠はその印象をなかなか払拭させることができなかった。
「なんか……怖い、夜の学校って……」そう志翠が怖気つくと、清風は「ああ」と同調しながらも「俺を怒らせたことを後悔したか?」と意地悪を付け足した。
「清風ってば、マジ性格悪い!」
「そうだよ、今頃気づいたのか?」
志翠に腕を殴られながらも、清風はケラケラとわざと軽く笑って、志翠の恐怖を別の場所へと逸らせてみせた。
屋上までのぼり、厚手のレジャーシートを何枚か広げてバラバラと部員たちはそこへ座った。
流星群まではまだまだ時間があるため、真面目に天文について復習するのかと思えば、始まったのはOBたちによる恋愛調査だった。
「天文部はいわば喪部 だ! モテない男の集まりだと揶揄される。そうならないためにも夏合宿までになんとしてでも女子部員を獲得してだな……」と、後世のなんのためにもならない助言を延々とOBから聞かされた。
「先輩、お言葉ですが今年は地学オリンピック優勝という目標が我々にはあります! 今年こそうちは成し遂げるます! このスーパールーキー明月 が我々を優勝へと導いてくれます!」
「ダサい通り名がまた追加された……」と志翠はポソリと心の声を漏らしてしまい、清風が慌てて口を塞ぐ。
「気にすんな、あの人たち毎年あれだから」と2年が志翠へ耳打ちする。
「それに、お前らは顔のつくりも良いんだし、そもそも天文部に入って来たことが例外案件過ぎんだよ」
「いや、俺は星が好きで入ったんです。これ以上純粋な入部動機他にあります?」
「そこがもうおかしい、明嵜 はキャラと中身が間違ってるよ」
「先輩、明らかに今俺を馬鹿にしましたね、さすがの俺でもわかりましたよ」
「ちょっと揶揄っただけだよ〜、怒んなよ明嵜〜、可愛いから思わず揶揄っちゃうんだよ〜、なぁ? お前ならわかるだろ? 明月」
「は? なんで俺に振るんですか」
あまりにも真顔に答えられてしまい「振る相手を間違えたわ」と2年は大きくシラけた溜め息をついた。
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