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2 我未だ人を知らぬに、如何にして此の事のあるべき

 目が覚めても、激しい虚無感に襲われることは夢の中と変わりがなかった。いや、あることを知ってしまったがゆえに、現に戻ればそれはさらに激しいものとなって、私を苛んでいる。  手を伸ばし、サイドテーブルの上に置いていた名刺を手に取る。ベッドに横たわったまま、私は一昨日ルカにもらったそれを眺めた。  名刺の表には店名と電話番号、裏にはルカの名前と『月・水・金』という文字が書かれている。ただそれだけである。  快楽に溺れた夢を現実世界へと延長させるような感謝の言葉も、次の来店時の指名を請う為の甘い誘い文句も、何一つ書かれてはいない。  客が店を出る時、ホステスは客を出口まで案内することになっているようだった。その時に、客に更なる好印象を与えようということなのだろう。  私が店を出る時、ルカも私を出口まで案内してくれた。しかし彼は、私を喜ばせるような――例えば、腕を組んで歩くといった行為をするわけでもなく、物憂げな表情のまま口を結び、ただ無言でこの名刺を私に差し出したのだった。  結局ルカとの時間の中で、私は私自身の肉体に対して何ら快感なるものを与えられることは無かった。私がルカの精液を飲み込むのを確認した後、ルカはそのままシャワー室へと消えていったのだ。それが何かしら特定の者に対してのみの振る舞いなのか、それとも、あらゆる客に対して同じように振る舞うのか、私には分からなかった。  ただ、明らかに分かることは、あのような調子では、苦情の類が絶えないであろうということだった。  ルカの行為は、およそ私が想像していた性風俗において提供されるサービスというものとは、かけ離れたものだ。そのような職業に従事する者の大半の動機となっている経済的報酬は、客に対して提供するサービスの対価である。だからこそ微笑み、だからこそ媚びるのだ。自分が『商品』なのだから。  しかし彼には、そのような意識が全く見られなかった。  だからこそ、なのかもしれない。私は抑えようもないほどに渇きを覚え、手にしていた名刺を何度かひっくり返し、店名とルカの名前を交互に見た後、名刺と一緒にサイドテーブルに置いていたスマートフォンを手に取った。そして電話番号を入力し、コールボタンを押す。 「お電話ありがとうございます。プリティ・ローズ、兎我野店です」  何がそんなに楽しいのか。そう聞きたくなるほどに、電話に出た男の声は明るいものだった。 「今日、ルカさんは出勤ですか」 「ルカちゃんですか」  男は、どちらかというと怪訝な、何の用なのかと尋ねんばかりに低い声になって、「はい、出勤してます」と続けた。 「十時から、予約できますか」 「ご指名ですか。はい、大丈夫ですよ」  しかし私の言葉を聞くや否や、男は最初以上に明るい声を出し、その後、希望のコースを尋ねてきた。私が九〇分と答えると、さらに名前を尋ねてくる。  少し考えた後、又井と名乗り、電話を切った。

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