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 物体を挿入するようにはできていない身体的部位に、何かしらのものを挿入していくという行為が、一体どんな意味を持つのか。そこは本来、人体にとって何ら意味を為さなかった不要物を体外へと排出するための孔なのだ。  ただ単に、その対象に対し苦痛を与えることを目的にしているというのなら、ルカが今まさに私に対して行っている行為は極めて有意と言えるだろう。  磔刑にされた救世主の躰に突き刺された槍ならば、それが与える苦痛は大にして瞬であったはずだ。しかし、皮膚と粘膜の境界を通り、体の中へとゆっくりめり込んでいくものが、私に間断なく襲い掛かる鈍なる苦を与えていく。  時折そこに、前触れもなく激なる痛が差し込む。その度に、体が意識的な制御を無視し、痛を可能な限り苦へと変換しようと、跳ねるように限界まで反り返る。私はただ、苦になりきれなかった痛が通り過ぎるのを体を硬直させて待つしかなかった。 「ねえ、こっち向いてよ」  私の体の向きが変わると、ルカがそう声を掛ける。その声に従い視線をルカの方へと向けると、ルカが口元に笑みを浮かべた。 「そんなに力入れたら、余計に痛いよ。まだ半分も入ってないのに」  そしてまた、私の体の中に異物を差し込む力が強くなる。粘膜が無理矢理押し広げられる鈍い感覚、その後に再び耐えがたいまでの激痛が私を襲った。腕を動かしたが、手錠が手首に食い込み、痛む個所が増えただけに終わる。  ルカは目を見開いて、私が苦しみに悶える様子を見ていた。いつしか彼の顔から笑みと呼ぶべき類の表情が消えている。ルカはまるで、目の前で繰り広げられる光景に驚きつつも、それから目を離すことができないでいる子供のようであった。  自分の目前に横たわる贖罪の山羊が、自分の手の動きによってどのような反応を示すのか。それを一つ一つ確かめるように、ゆっくりと突き入れたり、わずかにひねりを加えたり、たまに引き抜くような動きを見せたり、もしくはしばらく動きを止めてみたりということを繰り返している。  一瞬、ルカが大きく息を吸った。次の瞬間、差し込まれた異物が私の粘壁を突き破ろうとするほどの圧力を感じ、私はまた体を反らせた。私の後ろ手をつなぐ手錠が手首に食い込む。  ルカは、うつ伏せになった私の背中を押さえつけ、そして力を緩めることなく、その異物をさらに私の奥へ奥へと差し込んでいった。 「痛い?」  ルカの問いかけに答えることができない。まるで私とは別の意思を持つかのように、意識することをせずとも、私の下半身には異物の侵入を拒むための力が込められている。しかし、それをねじ伏せるように、異物は私の消化管を形成する粘膜を押し広げ、私の体の奥に耐えることができないほどの苦痛を与えた。  ルカの冷え切った手が、私の臀部に押し付けられる。それが、もうこれ以上異物の侵入が奥へと行かなくなったことを教えてくれた。  そのまま、ルカの手の動きが止まる。激痛が止み、鈍痛へと変わった。部屋の中に、荒くなった私の呼吸音が響く。そこに、ルカの呼吸の音も重なった。  それがどのくらい続いただろうか。私の中に突き立てられた処刑の槍が、ゆっくりと引き抜かれていく。しかし、そのものが皮膚と粘膜の境界を離れてもなおしばらくの間、私の腹の中には何かその残滓のようなものが残っていた。  しばらくの静寂の後、衣擦れの音と衣類が床に落ちる音が続く。そしてルカの手が私の肩に置かれた。その力に身をゆだねると、私の体が仰向けになる。手にはめられた手錠が、私の背中を覆う皮膚に食い込んだ。それを和らげるために腰を浮かそうとしたが、ルカがそれを阻むように、私の両足を両腕で抱え込む。 「まだだよ」  そう言ってルカは、自分の下腹部を私の臀部へと押し付けた。ルカの硬くなったものが、先ほどまで異物が挿入されていた孔に当たる。  かつて私が百合の蕾のようだと形容したルカのものが、今は槍の刃先となり、私の体の中へと突き立てられた。

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