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 しばらくの間ルカは、その態勢で体を硬直させていた。懺悔を終えたのか、それとも射精に伴う神経の昂ぶりが治まったのか、顔を上げたまま視線だけを私の方へと向ける。  ふと、ルカの目から涙が零れ落ちた。それが部屋の照明を反射し、青く煌めく尾を引く。 「なぜ泣く」 「泣く? ボクが?」 「ああ」  私の言葉に、ルカはそっと自分の頬に手を当てた。そして指に付着した水滴をじっと見つめ、そのまま手を私の顔へと押し付ける。  ルカの目から零れ落ちる雫は留まるところを知らず、後から後から頬を流れていく。顎の線を伝いその先端まで到達すると、その重みゆえに下へと落ちた。  ルカの口から嗚咽が漏れる。 「分かんない」  そう言うとルカは顔を手で覆い、俯き、そして泣き出した。  両手に力を入れ、上半身を起こす。私の両足の間に力なく座り泣き続けるルカを、私はかける言葉も見当たらず、ただ見ているしかなかった。  このような時、髪を撫でてあげれでもすれば少しはルカの気持ちも落ち着くのだろうか。そうしてあげたい気持ちにかられたが、後ろ手に手錠をはめられていては、それも叶わない。  もちろん、その涙の理由にも思い当たることは無い。ただ、そこにルカが背負っているある種の十字架の存在を感じる。ルカが私に対して行った行為こそ、その告白だったとも言えるのだろうが、それが何なのか、私は知ることができなかった。 「すまない」  ただ懺悔の言葉だけが口を衝いて出ていく。 「なんで謝るの」  手の甲で涙を拭いながら、ルカが顔を上げた。息がかかるくらいの距離で見るルカの顔は、薄暗い照明の下でもなお、神が創りし奇跡の如く輝いて見える。  そこで私は、自らの誤りに気が付いた。ルカは、女性のようでも男性のようでも『ある』のではない。『無い』のだ。  少年とも言えず、男性とも言えず、少女とも言えず、女性とも言えぬ存在。あらゆるものの境界に立つその姿に、私は魅入ってしまっていた。 「ルカが涙する理由が分からないからだ」  私がそう言うと、ルカは少し不思議そうな表情をした後、ふっと顔を緩めた。 「ボクにも分からないんだから、謝る必要なんかないよ」  ルカがベッドを下りて立ち上がる。そして私の背後に回ると、手錠を外した。私の手を取り、手首をなでる。 「痕、ついちゃったね」 「そうだな。でも、すぐ消える」 「仕事、大丈夫なの」 「今日のところは問題ない」  確かに、手首に少し痣ができていた。そうしようと思ったつもりはなかったのだが、無意識のうちに暴れてしまったのかもしれない。 「怒らないの」 「何を」 「ボクがやったこと」  ふと、意識が自分の臀部に向かう。まだ異物感は消えていない。 「ルカの望むことをやるように言ったのは私だ。なぜ怒らなければならないのだ」  手首を触りながらそう答えると、ルカはふうんという声を出した後、私を立たせた。 「シャワー、浴びよ」  ルカは、私の手を握り、私をシャワー室へと連れていく。半ば押し込むようにされて、シャワー室へと入った。  ルカがカランを回し、シャワーから水を出す。それがお湯に変わるのを待って、私の下半身を洗い出した。ソープを手に取り、前と後ろ、両方を手でこする。 「足、開いて」  その言葉に私が従うと、その隙間に手を入れ、私のお尻を流し始めた。その手つきは、どことなく緩やかだ。 「中に、出しちゃったね」  そのルカの言葉が、独り言なのか、それとも私へ何かを伝えたいのか、その判断に迷う。 「そうだな」 「怖くないの」 「何が」 「病気」 「持ってるのか」 「まさか。ボク、入れたの初めてだし、入れられたことないし」  そこまで聞いて、ルカが言いたかったのは多分性病についてではないのだろうと分かった。 「なら問題ない」  私がそう答えると、ルカは少し不満げに鼻を鳴らした。

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