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 中に入れば、もう二度と出ることのできない場所へと続く門。ルカが口を軽く開ける。私は躊躇なく、その中へと自らの舌をくねらせた。舌と舌が絡み合い、ルカの口の中で、ただ混ざり合う為だけに分泌された唾液が綯交ぜにされていく。  ルカが私の手を解き、両の腕を私の首に回す。自然と私の腕もルカの背中へと回り、深い口づけを交わしたまましばらく抱き合った。 「ファーストキスだよ」  ようやく離れたルカの口から、そんな言葉が吐息と共に漏れる。私の目の奥を覗き込むルカの目には、しかし、何かしら熱いものも潤んだものもない。少し重たげな瞼の下は、冷めきった感情で満たされているように思えた。  そこには、希望がない。まるで、『一切の希望を捨てよ』と刻まれた門を垣間見た者の目のようだ。 「そうか」 「順番が逆だね」 「順番?」 「セックスが先になってる」 「あれは、セックスだったのか」  ふと疑問に思ったことを口に出してみる。 「アナルセックス。まさか子供の出来ない行為だからセックスじゃない、とか言わないよね」  続けようとした言葉を、先にルカに言われてしまった。 「では、セックスとは何だ」  その問いかけに、ルカは少し目線を横に向ける。そして、再び私に戻すと、「穴に入れること、かな」と、断言とも疑問とも取れるようにつぶやいた。 「なら、キスもか」  突き詰めて言えば、口腔から肛門までは一つの管でしかない。その機能によって便宜的に名称をつけているにすぎないのだ。  しかし私の言葉に、ルカは思わずというように軽く噴き出し、笑い出した。 「せめて、『フェラもか』って言ってよ」  何がそこまで可笑しかったのかは私には判らなかったが、ルカはひとしきり笑った後、私を軽く押し、自分の体から離した。そして両腕を胸の前で交差させ、胸を隠す。 「ねえ、ここも洗ってよ」  ルカは顔を少し横にそむけると、自らの下腹部を私の目前に曝した。  それは、ルカが『穢れ』と呼んでいたものであり、私の口の中で花弁を開かせた百合の蕾であり、そして、私を突き刺した槍の切っ先でもある。  ソープを手に取り、そのもの、そしてその周りに塗り付け、緩やかにこすっていく。陰毛の全く生えていない、白くすべやかな肌の感触が手に伝わった。 「脱毛した」  ルカが、少し身をかがめた私の頭上から声を掛ける。  ルカの陰部が無毛であることの理由に少し興味を持ったのは確かだ。しかしその先回りした答えを聴いて、ルカが私の思考を把握しているという驚きよりも、この子はこうやって目の前の人間の思考に常に意識を向けながら生きてきたのだろうかという疑問の方を強く感じた。 「なぜ」 「汚らわしかったから。おかしい?」  ルカが浄化したかったものは、その陰毛が覆っていたもの本体だったに違いない。その代償行為としての脱毛。そう思うのは、考えすぎだろうか。 「いや。美しいと思う。とても、清らかだ」  私はそう返事をした後、今は柔らかく頭を垂れているルカの陰茎、包皮、そしてそれを剥ぐことによって現れた紫紺の粘膜を、手で包むように洗っていった。  それをされるがままになっているルカが、ふと割礼を受ける少年のように見え、一瞬手が止まる。 「やっぱり変だね、マタイって」  ルカがそうこぼしたが、私はそれには答えず、付いていた泡をシャワーで洗い流していった。  それが終わった頃合いで、ルカが私の手からシャワーを奪う。そして私に付いてしまった泡を手早く洗い流すと、シャワー室の扉を開け、入り口付近に積んであったタオルを取った。私の体を拭き、それをそのまま差し出す。 「ベッドで待ってて」  そう言って私をシャワー室から追い立てた。ルカはまた自分で洗いなおすのかと思ったが、ルカもタオルを取り、シャワー室の中で体を拭き始める。  私の体にも少し水滴が残っている。それをタオルで拭き直し、籠に入れてあった下着を手にとる。 「着るの?」  ルカは、バスタオルを胸に巻いた姿で、すぐにシャワー室から出てきた。そして不思議そうに私を見ている。 「違うのか」 「まだ時間残ってる」  そう言うとルカは、私を半ば強引にベッドに座らせ、自分もその隣に座った。

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