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ロゴの入ったグリーンのTシャツにデニムのロングスカートを翻し、セーラはボクの横で颯爽と歩いている。いつの間にかサングラスをかけていたが、その姿は本当にモデルのようだ。
ボクもバイザーの付いた帽子をかぶった。日焼け防止用のロングセーターが短パンの膝くらいまで隠してくれてるけど、あまり日の当たるところは歩きたくない。
それはセーラも同じのようで、店から駅まで、アーケードのある商店街や商業ビルの中を通り抜けていく。
平日の昼間は、意外に人通りが多い。ショッピングに来た主婦のグループ、若い女性は学生だろうか。その中に混じって少なくない数のビジネスマンがせわしなく歩いている。
マタイも、あんな風に歩き回ってるんだろうか。ビジネスマンとは違うけど、身なりはそれっぽかった。
セーラの方を見る。セーラはボクより頭一つ高い。こうやって並んで歩くと、他の人からはどう見えるんだろう。姉妹か、それとも姉弟か。恋人には見えないだろうな。
駅でボクだけ切符を買い、ホームへと向かう。じめっとした空気が肌にまとわりついた。
「暑いねぇ。この湿気がたまらないよ」
建物の中を歩いている時はどこも空調が効いていたが、外気にむき出しのホームではじっとしていても汗が出てくる。
「ファンデは塗ってるのかい」
「めんどくさい」
「化粧しなくても、ファンデくらいは塗っときな。ちゃんと紫外線対策しとかないと、しみそばかすだらけになって後で後悔するよ」
「うん、わかってる」
到着した電車に乗り込むと、セーラとそんな話をした。空調は効いておらず、窓がいくつもあけられている。車内には空席もあったが、一駅ということでドア付近に二人で立ったままでいた。
アナウンスが駅名を連呼する。
「何度も言わなくても分かるってのに」
セーラはボクに向けて笑って見せると、開いたドアから真っ先に降りて行った。慌ててそのあとを追いかける。階段を降り、一階の改札から外へ出ると、大通りの向こうに立ち並ぶマンション群が見えた。
「買い物、するの」
「なんか食べたいものでもあるのかい」
「ううん、ない」
「じゃあ、アタシに任せな」
駅の近くにあるスーパーには寄らず、セーラはボクを連れてまっすぐマンションへと向かった。
駅から歩いて五分ちょっとの場所にある、1LDK。リビングダイニングと寝室の二部屋しかないが、家賃と管理費で一〇万を超えるそうだ。
「ほら、入った入った」
エレベータで五階まで上がり、部屋の前に着くと、セーラはドアを開けてボクを中へと誘った。
「おじゃまします」
「なんだい、他人行儀に」
「だって。誰か、他の人は来ないの」
セーラが、キャップとサングラスを脱ぎ、ショルダーバッグと一緒に寝室に放り込む。
「今のとこ、そんな男はいないねぇ」
そう言って、笑った。
別に、男に限っての話じゃなかったけど、セーラは、部屋に招き入れる人物は自分の恋人と決めているんだろう。
「ボクは」
「そりゃ、かわいい妹さね」
セーラがダイニングチェアに座るよう、手振りで伝えてくる。そのままキッチンに向かい、鍋に水を入れ始めた。
キッチンとリビングダイニングを仕切るカウンターはないが、その分、リビングとダイニングそれぞれのスペースが確保されている。リビングにはソファとテレビ、ダイニングにはテーブルとチェアが置かれていた。
「弟じゃなくて?」
何かを作り始めたセーラの背中に、そう訊いてみる。セーラは、鍋をコンロに置きスイッチを入れると、ボクの方へと振り向いた。
「どっちがいいんだい」
自分で決めな。セーラの目がそう言っているように見えた。
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