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 プレイルームにいたのは、少し気の弱そうなおじさんだった。五十くらいだろうか。短く切った髪には白いものが混じっていて、頭頂部は薄い。体は小さいが、お腹周りには年相応の贅肉が付いている。  ボクが挨拶と謝罪をすると、そのおじさんは軽い声で笑いながら、気にしてないから大丈夫だと言ってくれた。  明るくて、でも優し気で、楽しそうにセーラと話をしている。セーラはその人の腕を抱えながら笑ったり、時々キスをしたりする。嫌な客なら平気で接客を断るのがセーラだけど、多分このお客さんはセーラのお気に入りなのだろう。もちろん、お客さんとしてだろうけど。  シャワーを浴びた後、プレイが始まる。ベッドに横たわるおじさんを、手や舌を使ってセーラが愛撫していった。そのたび、おじさんが艶かしい声を立てる。まるで女性のように。でも、その声はどこまでも男性のものだ。  男性が、女性のような見目のセーラの愛撫で、女性のようによがっている。それがボクにはとても不思議な光景に見えた。  セーラが態勢を変え、陰嚢の無い局部をおじさんの鼻先に差し出す。おじさんは、乳飲み子のようにそれにむしゃぶりつき、一生懸命舐め始めた。  ローションがセーラの手に落とされ、おじさんの下腹部、そしておしりへと塗られていく。口をセーラの陰茎で一杯にしながらも、おじさんは嬌声を上げていた。  セーラが、おじさんの口から離れ、お尻へと回る。両脚を抱えると、おじさんのお尻に硬くなった自分のものをあてがい、腰を沈めていった。 「ルカ、咥えさせてあげな」  セーラのその言葉に、ふと我に返った。こんなにも穢れたものを、この人に咥えさせるなんてと思い、気が引ける。でも、ボクが近寄ると、おじさんは自分からボクの陰茎を咥え、セーラのものにしたのと同じように夢中で舐め始めた。 「腰、振って」  セーラがボクにそう指示をする。恐る恐る、おじさんの口へと抽送を始めると、セーラもそれに合わせて動き始めた。  おじさんが漏らす声は苦しそうではあったが、その中に時折どこか喜びにも似た悲鳴が混じる。  それは、ボクがマタイの中へと挿入した時に見せたマタイの表情、口から漏れたマタイの声とは全くと言っていいほど違う種類のものだった。  いつの間にかボクは、そのおじさんにマタイの姿を重ねていた。マタイなら、どんな表情をするのだろう。どんな声を上げるのだろう。苦痛ではなく、その先にある快感に溺れる姿を見てみたい。あの済ましたような理性の皮の中にある魂がむき出しにされた時に響く、本能の咆哮を聴いてみたい。  その妄想によって、ボクの陰茎はいつの間にか痛いくらいに勃起していた。そのうち、おじさんが断末魔の叫びにも似た声を上げ、体を仰け反らせ、硬直する。その声が途切れると、肩で息をしながらぐったりとベッドに体を預けてしまった。  その後、サービスの続きはセーラが一人でするというので、ボクは挨拶をして部屋を出た。その際、おじさんが少し興奮気味にボクに礼を言うのが少し不思議だった。  控室に戻っても、さっきの光景が頭から離れない。何もしないままぼうっとしていると、そのうちセーラが戻ってきた。 「ごくろうさん。お客さん、とても喜んでたよ。また機会があったらお願いしたいってさ。あの人も好きだねぇ」  セーラがそう言ってボクにウィンクをする。でも、どう反応していいか分からず、ただ頷いた。  それに頷き返すとセーラは鏡台の前に座り化粧直しを始める。その横顔はどこか満足げに見えた。 「あのさ、セーラ」 「なんだい」  セーラは手を止めずにそう返事をする。 「アナルって、そんなに気持ちいいの」  しかしその言葉に、驚いたような表情をこちらに向けた後、ぷっと吹き出した。 「そういやルカは『まだ』なんだったね」 「うん」 「気持ちいいってのはね、何をするかとか、どこにするかとか、関係ないんだよ」  そう言うとセーラはまた鏡の方を向いた。赤みのきついルージュを唇に薄く塗っていく。唇を内側に巻き、全体に馴染ませ、左、右と角度を変えながら、仕上がりをチェックした。それに満足したのか、ボクの方へと向き直る。 「快感てのは、心で感じるもんさね。同じことをしても、相手やムードによって感じ方は変わるんだよ」 「そんなもんなの」 「ああ、そうさね。ルカにも、そのうち分かるよ」  そう言ってセーラは目を細めた。  じゃあセックスは、心の繋がりなのだろうか。でも、風俗に来る客なんてただ体の繋がりを求めているだけのような気がする。  あのおじさんは、なんであれほどに感じていたのだろうか。その姿を見ても、別に気持ち悪いとかは思わなかった。ただ、不思議でしかない。  もしマタイがあんなふうに感じたなら、その時何を思っているんだろうか。知りたくて知りたくてたまらなかった。

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