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 肉感の全くないルカの細く白い身体から腰を離すと、ドロッとした感触が私の下半身に伝わった。何かに気付いたように、ルカが傍にあったティッシュを二枚取り、お尻に当てる。そのティッシュを見て、「血が出てる」とつぶやいた。 「大丈夫か」 「平気。処女だったから」  そこでルカが見せた微笑みに、一体どんな意味が込められていたのか、私には分からなかった。  ベッドを下り、立ち上がる。服に手を伸ばしたところで、ルカが私に「シャワー」と声を掛けた。  ルカもベッドから立ち上がり、そして乱れた髪を直そうとする仕草を見せる。しかし、手がローションで濡れていることに気付いたようだ。「髪、直して」と言って、頭を私の方へと差し出した。  ルカの後頭部は、髪の毛が無造作に巻いてしまっている。それを手櫛ですいていくと、ルカの髪の毛の感触を手のひらで感じることができた。  一本一本は細くしなやかで、流れるように首元まで落ちている。しかし毛先の外へ跳ねた部分は、手櫛では直らなかった。 「ありがと」  そうしている途中で、ルカがシャワー室へと向かう。そのまま、どこか急き立てられるような思いで、シャワーを浴びた。  その間ルカは無言だった。別に不機嫌というわけではない。ただ、何かを考えている風だった。  シャワーを浴び終え、服を着る。バッグを手に取ったところで、ルカが右手を上に向け、私へと差し出した。 「スマホ」  上目遣いに私を覗き込んでいる。しばらくルカと目を合わせた後、カバンからスマートホンを取り出し、ルカに渡した。ルカが、画面を操作する。 「ロック番号、変えてないんだ」 「その必要を感じない」 「そう」  ルカは、軽く返事をして、私にスマートホンを突き返す。 「それだけか」  私の問いかけに、ルカは微かにうなずいた。ルカからそれを受け取り、鞄にしまう。私の動きを目で追いながら、ルカは誰に言うともなく「スマホ、持ってないし」とつぶやいた。 「意外だな。不便ではないのか」 「オーナーとの連絡に持ってたけど、十八になったんだから自分で払えって言われて、解約した。別に、誰にも連絡しないし、誰からも連絡来ないし」 「アプリや動画もあるだろう」 「見ないし」  つまらなそうに、ルカがそう答える。  ルカは普段、自分の部屋で何をしているのだろう。誰かと暮らしているのか、それとも一人暮らしなのか。どこに住んでいるのか。名前は何なのか。  私はルカについて何も知らない。しかし、ルカが何者なのかということに興味は無かった。いや、他人の詮索をすることを仕事にしているせいか、何かに興味を示すことに疲れてしまっているのだろう。  今そこにいる存在。それが全てだ。 「そうか。それもいいだろう」  どうせ、意味の無い行為なのだから。  鞄を持ち直し、ルカの横を通り過ぎる。 「月曜は、何時に来るの」  腕を組み、少し顔を上げ、ルカより頭一つ高い私を見下ろすような視線で、ルカがそう尋ねた。  来るかどうかではなく、何時かと訊く。眠たげにも、憂鬱げにも見えるルカの目には、私はどう映っているのだろうか。 「月曜は人に会う約束をしている。来られるかは分からない」  私がそう言うと、ルカはふうんと鼻を鳴らし、部屋の扉に手を掛けた。 「お金、続くの」  振り返り、またルカが尋ねる。 「今は」 「そう」  一言だけで応じると、ルカは勢いよく扉を開け、私に外に出るよう促した。

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