47 / 68

9-6

 私の舌がルカの皮膚を這い上がり、臍から肋骨を越えて、胸へと至る。加えられた快感にルカが体を震わせると、私の更なる欲望が本能の深潭から汲み上げられ、つぎ足されていった。  もはや、私の舌は理性の制御を振り切り、舌自らの意思で動いているようだ。ルカが立ちながらにして両腕を頭の後ろで組む。ルカの胸の上にある小さな桜の花びらが、私の舌で蹂躙される。その生き物は、そのまま、ルカの胸から腋、腕、そして首筋へと身をくねらせていった。  ルカが、あの店では決して発することの無かったような悦びの声を上げる。衝動を止めることができず、ルカを抱き、ベッドへと押し倒した。  激しい口づけの後、ルカが私に、ルカの硬くなったものを私の中へ入れるように要求する。私自ら、そうしろと。  躊躇いは一瞬でしかなかった。ルカの上に乗り、ルカのものを私の入り口にあてがう。硬く張った百合の蕾が、罪人を貫く槍の切っ先となり、私の中へと突き刺さった。  決して太くはないその切っ先は、しかし潤滑のための粘液が何もないため、私の粘膜を引き裂きながら奥へと進んでいく。目をつむり、その激痛に耐えながら、最後まで腰を下ろした。  薄く瞼を開く。ルカは、口元に好奇と驚嘆を混ぜ合わせたような笑みを浮かべている。 「動いて。自分で」  ルカの言葉に、腰を軽く浮かせ、そしてまた下ろす。確かな質感のあるものが、生々しいまでの刺激を加えながら、私の中で抽送を繰り返した。  私が動いているのかルカが動いているのか分からなくなる中で、下半身に走る激痛が次第に薄れていく。私の痛覚が麻痺してきたのか、それとも粘膜から流れ出した深紅の体液が粘液の代わりをしだしたのか。加えられる刺激が脳を痺れさせるほどの快感へと変わっていく。それとともに、私を見つめるルカの表情が、恍惚としたものへと変わっていった。  体の中で余った部位を、相手の足りない部位へと刺して塞ぎ、新しいものを創造する。そんな神話を聞いたことがある。  しかし、ルカとの交わりは、何物も生み出すことはない。どこまでも非創造的な交わり。その果てには、無限の荒野が広がっているのだ。  ああ、幸いなるかな、意味なき者よ。真の楽園は彼らのものである。価値も、意味も、結果も、何も持たない、ただ己の実存だけでその荒野に降り立つとき、その魂は穢れなき輝きを放つ。  私とルカの交わりは、お互いがお互いの目的でしかなく、それ以外に目的も意図も意味もない、純粋な魂の交わりだった。  ああ、幸いなるかな。ルカが絶頂を迎え、私の中に精液を放つ。その瞬間、私の体を射精時の快感とは全く違う神経の昂ぶりが貫いた。その興奮に耐えきれなくなり、私の喉が唸り声を立てる。ルカが私の体を引き寄せ、強く抱きしめた。 「ずるいよマタイ。先にいっちゃうなんて。ボクも、いかせてよ」  下腹部は、まだ熱を持ったまま硬くたぎっている。ルカのものを引き抜き、今度は私のものをルカの中へと、半ば強引に挿入した。  ルカの口から荒々しい吐息が洩れる。それは苦痛によるものなのか、それとも歓悦によるものなのか。私の抽送運動に合わせるようにルカが喘ぎ、私の首を抱き、そして私の名前を何度も呼んだ。  私の中に注がれたルカの精液に意味など無い。そして、ルカの中に注がれる私の精液にも意味など無い。生物学的にはなんら成果を生み出すことのない行為が、私とルカの間で繰り返される。  純粋なる魂の交わり。それこそが、福音だった。

ともだちにシェアしよう!