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高校入学当初、同じクラスのイケメンは全校中の注目の的だったし、既に彼女がいると分かった時の女子の嘆きはすごかった。
容姿端麗、品も良く人当たりも良かった嘉貴は誰からも愛されていて、卑屈でもなんでもなく「住んでいる世界が違う」とその存在を視界の端で流し見していただけだった。
そんな男と五年も友情を育み、家に通って手料理を振る舞う日々を過ごすなんて、あの頃の自分に言っても一〇〇%信じてもらえないに違いない。ましてや、好きになるなんて。
「人生、何があるか分かんねぇよなー……」
「ん? 何の話?」
「独り言。あっ!」
着替え終わりリビングへ入って最初に視界に入ってきた光景に、批難めいた声をあげる。
「何できなこにもうおやつあげてるんだよ!」
嘉貴から与えられたおやつを美味しそうに食べているきなこは一切こちらに反応を示してくれず、恨めしげに元凶を睨むが悪びれる素振りもなく肩を竦められてしまった。
「俺があげるって言っただろ」
「早くくれってずっと鳴きながら足にしがみつかれてたこっちの身にもなってよ」
「ちょっとは耐えろよ、根性なし」
「みんなして俺の足を傷つけないで。痛い痛い」
本当は自分もあげたいが、これ以上おやつをあげてしまうと健康によろしくない。今日はもう諦めるしかないという悔しさを嘉貴の足にぶつけて、凌は口を尖らせたままその足でキッチンへと向かった。
手を洗い、嘉貴が綺麗に片付けてくれた冷蔵庫の中を早速物色する。
豆腐、ぶた挽肉、にんにくと生姜。それから長ネギ等々。今日の献立に使う材料をてきぱきと取り出しキッチンに並べていく。ご飯は嘉貴に頼んでタイマーをかけてもらっているから、あとはサラダとスープくらいでいいだろう。
「何か手伝う?」
「ぎゃっ!」
頭の中で調理順を考え追加の具材も探していた凌の口から、色気のない声が飛び出た。
背後から覗き込むように声をかけられたことに驚いたのではなく、その毛先から滴る水滴に首を攻撃されたからだ。
「冷てぇ! ちゃんと拭けよ!」
「ごめんごめん。化粧落としたくてお風呂入ったけど、凌帰って来ちゃうなぁって急いでたから、つい」
眉を下げるついでに首も下げられ、求められるままにそこに引っかけられるだけになっていたタオルでわしゃわしゃと髪を拭いてやる。
「スタジオで落とせなかったのかよ?」
「閉めるギリギリまで撮影してたから、そのまま追い出されたんだよ。息子だからって酷い対応だよねぇ、ほんと」
「そりゃお疲れ様だ……」
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