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嘉貴の両親は、顔のいいひとり息子をこれ幸いとばかりに自社ブランドのモデルとして起用している。とはいえ本業は大学生なので学業が最優先、という配慮から今日のような休みの日には朝から晩までスタジオに軟禁状態の無茶なスケジュールをよく組まされている。いっそ配慮に欠けている気もしなくはない。
早いところご飯を食べさせて寝かしてやろう。とある程度タオルドライを終えたところでキッチンに向かおうとした凌は、一旦その動きを止めた。止めたと言うには少し語弊があり、正確には両肩を背後から掴まれ動きを制止されていた。
「何? メシ作らせろよ」
「うん、ちゃんと手伝うけど、フーディいい感じだなぁって」
くるり。凌を反転させもう一度自分と向かい合わせた嘉貴は、凌が着ているモスグリーンのフーディ(パーカーとの違いがよく分からない)を前後左右から確認し、うんうんと頷いてみせる。
「これかターコイズか悩んで、結局どっちも持って来ちゃったんだよね。あとでそっちも着てくれる?」
「これの下に置いてあったやつ? いいけど、派手じゃねぇ?」
「俺が選んでるんだから似合うよ」
与えられる服は、いつも凌が使わせてもらっている部屋のベッドの上に毎回山積みに置かれた状態で渡されることが多い。
山ができているとその中から着替えるのが暗黙のルールとなっていて、中でも一押しの服は一番上に置くのが嘉貴のクセでもあったので、凌もそれを着るようにしている。
たまに敢えて違う服を選んで着替えると、少しつまらなさそうな顔で褒めてくる様子をちょっとかわいいと楽しんでいるのは秘密だ。
「って言うか何でまた冬服貰ってくるんだよ? もう撮影は大分前に終わってるだろ?」
シーズンの服の撮影は一般人が思うよりも早く、夏の終わりには冬服の撮影が終わっていることが大概だ。なので秋が始まる頃には凌の手元に大量のニット服たちが届くのが恒例になっている。それなのにどうして今の寒い時期にぴったりの服ばかりをまたこんなにも渡されるのかと凌は首を傾げた。
「ああ。なんか知り合いの映画の撮影で使ったやつが返却されてきたんだって。リース用の衣装にするらしいんだけど、ちょっと数が多かったからいくつか持って行けって言われたんだ」
「なるほど……。有り難いけど俺をどれだけ衣装持ちにしたいんだよ」
「そう言うから、これでも結構厳選して来たんだよ?今回は母さんが選んだ分持ってきてないし」
「紗英 さん……」
嘉貴の母――紗英が嬉々として自分への服を選定している光景が容易に想像出来て思わずこめかみを押さえた。
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