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洒落たブルーム門扉の向こう側に見える広い庭と煌びやかな一軒家。何度見ても思うことが、今日もつい口からこぼれた。
「いつ見てもでかいな」
「本当、無駄にでかいよねぇ」
一ヶ月ぶりに来た嘉貴の実家は相変わらずの豪邸で、住む世界が違うなぁと凌はぼんやり思ってしまう。
白を基調にした邸宅は屋根や入り口手前の階段の手摺を濃紺に統一したスタイリッシュなデザイン。
手入れの行き届いた庭は二月の厳しい寒さにも負けず色とりどりの花が咲き乱れている。
最初は庭師でも雇っているのかと思っていたので紗英が管理していると知った時は驚いた。あんなに忙しそうなのにどこにそんな時間があるのか、バイタリティがあふれすぎていて恐れ入る。
なんと言う花か凌にはまったく分からなかったが、丹精込めて手入れされた花々は透き通るような青空も相まって絵画を切り取ったような美しい風景だった。
「ただいまー。……あ〜、マジかぁ」
「お邪魔します。…………マジか」
嘉貴のあとに続き踏み入れたリビングを見て、彼と同じ言葉を繰り返してしまった。
でもそれも仕方がないのだ。だって、大量の服が掛かっているハンガーラックが置かれている。それもひとつじゃなく、沢山。
それだけじゃ足りないのか四人は優に座れるであろう本革のソファにも無造作に服が散らばっていて、思わず天を仰いでしまった。
その光景にこれから何が起こるか分からないほど、浅い付き合いの凌ではない。
「正気か……?」
「うーん、これは俺も想像以上……」
「あら、お帰りなさい。嘉貴、凌くん」
ひょい、とリビングの奥にある部屋から姿を現した紗英は、嘉貴によく似た目元を細めて歓迎してくれた。
だがその腕にどっさりと抱えられた服たちに、凌は上手く挨拶が返せなかった。どれだけあるんだ、閉店セールか?
「母さん……少しならいいって俺はちゃんと言っただろ? 何時間凌のこと着せ替え人形にするつもり?」
「あら、だって久しぶりなんだもの。ちょっとくらい付き合ってくれてもバチは当たらないと思わない? ね、凌くん」
「一ヶ月前に来た時も同じこと言ってるよ、紗英さん……」
「言いたいことは沢山あるけど、とりあえず着替えちょうだい。体調は大丈夫?」
「ええ、薬飲んだから。いつも着替えさせて悪いわね」
「そう思ってる人はこんなに服用意して待ってないと思うけどね。あ、これ。今日の晩ご飯の材料。冷蔵庫入れといて」
「はいはい。楽しみにしてるわ」
紗英は軽度の猫アレルギーで、猫に触れるとくしゃみやかゆみを発症してしまう。幸いそこまで深刻ではないものの、念には念をと家に来ると最初に着替えるのが習慣になっていた。
きなこを引き取るにあたり、嘉貴が一人暮らしを始めたのも紗英を気遣ってのことだ。
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