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「この顔のせいか、昔っから変な女しか寄ってこないのよねぇ……」 「まあ俺も構ってあげられなかったからなぁ。でもそのおかげで美味しい珈琲の喫茶店見つけられて、凌と仲良くなれたから運命だよね」 「その運命の相手とやらは水ぶっかけられても平然としてたお前の態度にドン引きしてたけどな」  タオルを手渡しに行ったところ「もしかして生駒くん? 俺クラスメイトの露口なんだけど分かる?」とびしょ濡れのまま暢気に話しかけてきたその強メンタルに慄き、どちらかというと凌はお近づきにはなりたくなかったくらいだ。  けれどそんな悪目立ちをしたにも関わらず嘉貴は度々『つばめ』に来店するようになった。  来る時間帯はバラバラで、夕方の学校帰りの時もあれば閉店間際にヘアメイクもばっちりのまま来ることも少なくなかった。高校生なのに物怖じもせずスツールに腰かけひとりゆっくりと珈琲を飲み、凌に暇な時間がある時には少しばかり話して帰る。そうやって話すうちに、自分の話もいくつかするようになった。  親のブランドのモデルをしていること。結構楽しくて、自分も好きでやっていること。けれど急遽ピンチヒッターとして駆り出されることもあるのでどうしても人付き合いが後回しになってしまうこと。そんな感じだから恋愛も相手から告白されては別れを切り出される流れを繰り返していること。   一方の凌もバイトが多忙で親しい友達を作る時間もなければ、そもそも交際費の余裕もなかった。  親しい友達を作ってしまうと放課後にやれファストフードだカラオケだとつき合いが生まれてしまい、絶対どこかで亀裂が生じてしまう気もしていたから、学校内でだけなんとなくつき合える浅い友情だけ誰かと育めればいいと思っていたのだ。  そんなふたりだから、特に約束することもなく嘉貴が空いた時間にふらりと訪れて過ごす関係性はお互いとても気楽で、いつしか学校内でも一緒にいることが自然と増えていき、隣に立つことが当たり前になっていった。それがふたりの友達としての始まりだ。 「ところで、すっごくふれたくないけど……お前はシャツを一枚取りに行っただけじゃないのか?」  嘉貴が持っている服を訝しげに指させば、よくぞ聞いてくれたとばかりに嘉貴が破顔した。 「ん? ああ、ちゃんとそれもあるよ。でも他にもいいなって服があったから、いくつかピックアップしてきちゃった」 「『きちゃった』じゃねぇよ!」  ただでさえ服で溢れかえっているのにどうしてわざわざ増やすのか。意味が分からず声を荒げた凌なんて気にすることもなく、嘉貴は先ほどの紗英のように持っていた服を凌に合わせる。 「うん、いい感じ」 「そうね。それならあっちに置いてるジャケットにも合うわよ」  先ほどの呆れた雰囲気から打って変わってうきうきと声を弾ませた紗英は、二十一の息子がいるとは思えないほど可憐に微笑んで見せた。 「じゃあ凌くん、ファッションショーしよっか!」 「…………はい」  結局、紗英のファッションショーは徹が帰ってくるまで終わらなかった。

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