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第13話
いつものように望遠鏡を覗きながら作業に取り組んでいる和人の背中を見てホッとすると共に、俊は公園の入口に留まりそれ以上進めないでいた。
気配に気付いて振り向いた和人が、怪訝な顔で首を傾げる。半端でない落ち込みが、俊の表情にストレートに出ていたせいだろう。
「よぉ」
和人は一瞬の不可解な顔をすぐに消し去り、いつものようにややぶっきらぼうに声をかけてくる。いつもとは違う俊の様子に気付いているはずなのに、その素振りをまったく見せないで自然に接してくれることに感謝した。
「おはよう」
俊も笑顔を作って挨拶を返した。そして、今までずっとそうしたいと思っていたことを思い切って告げる。
「上月君、もしよかったら今日は、君の家に遊びに行ってもいいかな?」
言われた和人はもちろんのこと、俊自身も大いに驚いていた。
誰も知らない彼の私生活を知りたいと思っていたことは確かだが、まさかそれを言い出せるほどの度胸が自分にあるとは思わなかった。いつもの俊なら拒まれるのが怖くてそんな勇気は出なかったところだが、先ほどの校長との会話が背を押してくれた。
俊は和人と会うことを恥とは思っていない。その証として彼の家に行き、もっと親しくなりたいのだと伝えたかった。
「学校は?」
「今日は休むよ。たまにはいいだろう?」
和人は読めない瞳でじっと俊を見ていたが、いきなり言った。
「俊、おまえもしかして本当は、悪い方の50%に賭けてるのか?」
どういう意図の質問かわからず、俊は面食らう。
「どうして? もちろんいい方だよ」
和人は少しの間考えていたが、
「本当に、うちに来たりしていいのか?」
と、彼らしくなく少し不安げに念を押してくる。
「僕から頼んでるんだよ? あ……それとも迷惑?」
「いや、そんなわけないだろう」
そう言って、和人は笑う。その微笑は温かく、彼にしては珍しいほどに嬉しさを滲ませていて、俊の胸もほんのりと温かくなる。
もっと早く、勇気を出して言ってみればよかった。
「じゃ、行くぞ」
と先立って歩き出すその背を追いながら、俊はやっと和人の質問の意図を理解した。
もしも世界が消滅しないなら、このままの日常がずっと続いていくことになる。その中で、今こうして島の約束事を破っている俊が、変わらず生活していくことができるのか。あとひと月の命と思っているから、上月家を訪問するなどという破天荒なこともできてしまうのではないか。
和人はきっと、そういう意味で聞いたのだろう。
正直なところ、俊にはわからなかった。
確かに『Xデー』がなければ、俊は和人に話しかける勇気を生涯持てなかったかもしれない。島の常識に縛られて、一生視線を交わすこともなく終わっただろう。
だからといって、世界の滅亡に賭けたいわけではなく、自暴自棄になっているわけでもない。
ただわかっているのは、今和人の家に行くことに対して俊の中でわずかにも躊躇がないどころか、純粋にそうしたいと思っているという事実だった。そして今は、それだけで十分だった。
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