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第8話
1ー8 質問は受け付けません!
王城へと到着した俺たちは、待合室へと通された。
そこは、見たこともないぐらい豪華な部屋だった。
普通なら部屋の立派さに居心地悪くなりそうなところだったが、そのときの俺は、それどころではなかった。
「奥様は、誤解されています」
俺は、小声でそっと呟いた。
「俺は、別に男が好きなわけでは」
「いいのよ、ティル」
奥さまがふふっと慈母のごとき笑みを口許に浮かべた。
「気にしなくても」
「奥様!」
「ナカガワ アカネ殿」
奥様が名を呼ばれて立ち上がり謁見の間へと続く扉へすすまれる。
俺は、力なく囁いた。
「ほんとに、俺は、女が好きなんですよ、奥様」
奥様の後ろに続こうとした俺を衛兵がとどめた。
「ここから先は、従者は、入れん」
というわけで、俺は、奥様の戻るのをそのまま待合室で待っていた。
だが、奥様は、なかなか戻ってこない。
俺は、なんとか奥様の誤解をとかなくてはと思っていた。
たぶん、そんな誤解からいつもテオに魔力を与えるところを覗き見ておられたのだろう。
これは、困ったことになった。
俺は、とりたてていい男なわけではない。
どこにでもいる普通のおっさん。
それが俺だった。
どこにでもいるうだつの上がらないおっさん。
まあ、ちょっと最近は、浮いた話の1つもなかったことは確かだが、だからといって俺が男とどうこうとか。
いや。
ありえない。
俺は、頭を振った。
はやく。
一刻もはやく誤解をとかなくては。
俺がじりじりしていると、やがて扉が開いて奥さまともう一人、どこかで見たことのある大男が出てきた。
うん?
こいつ、どこで見たんだっけ?
俺は、考えていた。
そうだ!
確か、この男は、ハツ様と一緒に魔王を倒す旅をされている勇者だ。
俺は、奥様と勇者に礼をとった。
「帰るわよ、ティル!」
奥様が足音も高く、俺の前を歩み去りながら告げた。
「まったくバカにしてるわ!」
「そっすね!」
勇者が奥様の言葉に頷く。
俺は、ちらっと勇者を盗み見た。
金色の髪に、褐色の肌をした小山のようなたくましい体躯の男だった。
すごい筋肉だな。
俺は、こいつが好きにはなれそうにない。
俺も若い頃から冒険者の端くれとして鍛練に励んだものだが、いっこうに筋肉がつくことはなかった。
俺は、筋肉がつきにくいたちのようだった。
そのせいか?
俺は、2人の後ろについて歩きながら考えていた。
俺がマッチョじゃないから、奥様は、俺が男が好きとか思ってるの?
「マジで腹立つ!」
奥様は、イライラした様子だった。
「ティル!帰るわよ!そして、すぐにでも出発するからね!」
「はい?」
俺が早足の2人の後をついていきながらきくと奥様は不機嫌そうに答えた。
「質問は、受け付けません!いい?とにかくこれからすぐに私は、この勇者アニタス君と旅立つ。ハツを連れ戻すために!」
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