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第32話
3ー4 父親ですか?
「あなたは、今・・」
うん?
俺は、奥様の唇を見つめていた。
この表すところに、俺は、混乱していた。
奥様は、何を言っているんだ?
俺は、気分が悪くって。
その場で胃の中身を吐き出しそうになった。
奥様は、優しく俺の額に触れた。
「大丈夫」
俺は、奥様の冷たい指先にぶるっと震えた。
光がぽぅっと灯る。
すぅっと染み込んでいくように優しい魔法が俺を包み込んだ。
「大丈夫よ、ティル。私がついてるからね」
俺は、そのまま眠りに落ちた。
翌朝、俺は、いつものように起き出すと奥様の部屋へとお茶を運んだ。
「失礼します」
奥様は。
すでに起きていた。
そして、奥様の部屋は、なぜか、ぬいぐるみやら木の積み木やらが散乱していた。
「あぁっ!ティルったら!」
奥様が俺に歩み寄ってくると俺の持っていた木のトレーを奪い取り、俺をソファに座らせると、奥様は、俺を叱りつけた。
「だめじゃない、仕事なんてしちゃ。まだ、安静にしてないと!」
「でも」
口答えする俺に奥様は、熱いお茶の入ったカップを渡した。
「でも、も、だってもない!」
奥様がぴしゃりと俺に言った。
「あなたは、人の子の親になるんだからね!しっかりしなきゃだめよ、ティル」
うぅっ。
俺は、呻いた。
なんでこんなことに。
「それで、その子の父親のこと、話してくれる気になった?」
俺は、黙って頭を振った。
「ほんとにわからないんです。ガイナスという名の魔王軍の幹部で、銀髪で四本の角があるってことしか」
俺は、あの夜のことを思い出して体が震えるのを感じていた。
あの男。
俺を一昼夜の間、責め続けたあの男。
俺を番と呼んでいた。
そして、俺の体を作り替えてしまった男。
「俺には、それぐらいしか記憶がなくって」
「四本角、ね」
奥様が頷いた。
「アニタスに探りを入れさせるわ」
奥様が眉をしかめた。
「うちのかわいいティルをこんな目にあわせて、絶対にぶん殴ってやる!」
「はぁ・・」
奥様がこれほど俺を大切に思ってくれていたとは。
俺は、少し感動していた。
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