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第33話

 3ー5 怒り  「ところでティル」  「はい?」  「そのお腹の子供のことなんだけど」  奥様が言葉を選んでいるのが俺には、わかった。  「その、ミミル先生のいうことには、新亜種なのらしいわ」  新亜種。  俺は、背筋が凍えるのがわかった。  それは、魔族でもなく、人でもないもののことをいう。  普通、魔族と人が交って生まれてくるのは、魔族の特性を持つものか、人の特性を持つものかのどちらかだ。  だが、たまに、魔族でもなく人でもない、そして、同時に魔族でもあり人でもあるものが生まれることがあった。  『混血』と呼ばれるそれは、この世界ではおぞましいものとして恐れられ忌み嫌われていた。  そして、新亜種は、魔族と人類共通の敵だった。  「この子を殺してください」  俺は、奥様に懇願していた。  「男の俺が孕んだというだけでも異様なことなのに、そのうえ、新亜種だなんて。ありえない。この子を殺してください」  「ティル」  奥様がふぅっと吐息をついた。  「私は、気に入らないことだけど、ミミル先生は、それができるなら、とっくにしているでしょうね。それをしていないのは、それか不可能だから」  「どういうことですか?」  俺が問うと奥様が重いこ口を開いた。  「その子は、生まれながらに強力な呪に守られているらしいのよ。誰も、その子を殺せない」  「堕胎できないんですか?」  俺がきくと奥様は、こくりと頷いた。  「あなたが眠っている間に、ミミル先生や、他の術師が何度もチャレンジしたけど、誰もその子を殺すことができなかった」  マジですか?  俺は、血の気が引いていくのを感じていた。  どうすればいいんだ?  「俺を」  俺は、奥様にすがった。  「俺ごとにこの子を殺してください」  「それもダメ」  奥様がため息をついた。  「あなたを殺すことも我々にはできないんですって」  俺は、腹に手をあてて歯軋りした。  この子は、呪われた子だ。  父からも、母である俺からも疎まれて、世界からも憎まれて。  「はいはい、暗い話しは、これぐらいにして」  奥様がぱん、と手を叩いた。  「そんな顔しないでティル。生まなきゃしかたないんなら、もっとポジティブに考えていかないと」  奥様は、俺に額に角の生えた飛びウサギのぬいぐるみを見せて微笑んだ。  「大丈夫よ、ティル。あなたは、一人じゃないんだし。あなたのこと大好きなテオとキュウもいるし、私だってついている。元気を出して」  いや。  俺は、不意にどす黒い炎に飲み込まれていくのを感じていた。  これは、怒り、だ。  

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