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第43話
4ー2 魔力を注ぐ!
「もう、逃げないから離してくれ」
俺が懇願しても、男は、聞き入れてはくれなかった。
「いいかげんにしなさいよ!」
奥様が立ち上がって声を荒げた。
「ティルは、嫌がっているでしょ」
「嫌がるとか、そんなことは、関係ない。これは、私のものだ」
「何が、私のもの、よ!」
奥様は、捲し立てる。
「あんたのせいでティルは、すっかり思い詰めてるのに!」
「そうなのか?ティル」
男が俺をじっと見つめる。
男は、光の下で見ると、本当に美しかった。
俺は、まじまじとこの男のことを見つめていた。
流れるような青みがかった銀髪を腰まで伸ばしている。瞳は、澄んだ空の青だった。
そして、額に四本の角がはえていた。
「その、四本角。あなたは、もしかして魔王ガイナス・グレイではないですか?」
ミミル先生が問うと、男は、あっさりと答えた。
「いかにも、私は、魔王だが、ここに来たのは、魔王としてではなく、1人の男として来た」
魔王?
俺は、ハトマメで男を見上げた。
魔王ですと?
「このティルは、私の番だ。すでに私の番紋も刻んでいる。この紋を刻んだ以上、ティルは、私から離れては生きてはいけぬ。この紋が、私の魔力を欲する故にな」
「問題は、そんなことじゃないのよ?」
奥様がすんごい恐ろしい形相で魔王を睨み付けている。
「あんた、うちのティルを強姦した上に妊娠させちゃってるのよ?責任とってもらうわよ!」
「妊娠、だって?」
魔王がじっと俺を見下ろして、俺の裸の腹に手をおきわさわさと俺の体を撫でまわした後、感極まった様子で呟いた。
「確かに、私の子を孕んでいるようだな」
魔王は、俺を抱いたまま立ち上がった。
「寝所は、どこだ?」
「何、しようとしてるんだ?」
テオが声をあげた。
「答えによっては、お前を殺す!」
「ティルにはやく魔力を注いでやらなくてはならんのだ。邪魔するな」
魔王は、テオを睨み付けた。
「邪魔すれば、ティルの仲間とて容赦はせん!」
魔王の覇気にその場の空気がびりっと震えるのがわかった。
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