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第73話
6ー4 勇者の悩み
俺と勇者様が昼食の時間に食堂に行くと、そこには、見慣れない一団がいた。
金色の髪の美しい少女とその少女を囲むように座った男たち。
特に、赤髪の大男に俺は、目を止めた。
彼は、王都の冒険者ギルドで見かけたことがあった。
確か、『神速のアストレイ』とか呼ばれている王宮騎士団の団長アストレイ・キルミナーだ。
なぜ、彼がここに?
「アストレイのことっすか?」
俺の視線に気づいた勇者様が食堂の隅の空いているテーブルにつきながらそっと俺に訊ねた。
「あの人なら、この祭りに招かれた第3王女の護衛とかで来てるらしいっすよ」
「第3王女?」
俺は、金髪の少女のことを伺った。
なんか、神官風の白いローブをまとった小柄な気弱そうな少女だった。
「あの方は、サティ・ジストニア様。ルルぅの腹違いの妹にあたるっす」
現ジストニア国王には、2人の王子に3人の王女がいた。
その中でも最も身分の低い側室の母を持つ第3王女は、ごく目立たない存在で、めったに人前にはでなかった。
噂では、幼い頃から神子として教団の本部である王都から少し離れた街であるクリミナにある女神の神殿に仕えているとか。
「なんで、神子がこんなところに?」
「最近、サティ様は、ルルぅの代わりに公務にかり出されているんすよ」
勇者様が食事を運んできたメイドさんに軽く頭を下げながら、俺に説明した。
「なかなか素直でかわいい子っすよ」
あー。
俺は、少しだけひいていた。
勇者様のロリコンは、健在なんだ。
勇者様は、テーブルに置かれたマッドモウの肉のシチューをスプーンでつつきながら、ぶつぶつ呟いた。
「実は、国王から自分に手紙がきまして、その、ルルぅの代わりにこのサティと婚約してはどうかって」
はい?
俺は、ハトマメだった。
「でも、勇者様は、うちの奥様のこと好きなんじゃ?」
俺がきくと勇者様が顔を曇らせた。
「好きというか、好きかも知れないんすけどね。でも、国王からの申し出を断るのは、勇気がいるっすよ」
マジですか?
俺は、目の前に置かれたシチューの中に浮かんでいる肉片をスプーンでつつきながら勇者様に訊ねた。
「で?どうするんですか?」
勇者様は、俺の問いかけにため息をついた。
「自分、こういうの苦手っす。どちらも選べないっすよ」
無理もないな。
俺は、黙々とシチューを食べながら考えていた。
このロリコン勇者様にとっては、奥様よりもこの姫様の方が魅力的なのだろう。
だって、奥様は28才。それに比べて、サティ様は、まだたったの13才だもんな。
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