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第2話
龍とはじめて会ったのはその年の八月だ。
おたくの祭典であるコミケに遊びに行くためにコツコツとお年玉を貯金し、茉弓と新幹線で東京に向かった。初めての東京。しかも兄妹そろって方向音痴。どきどきしながらホームに下り立つと遼が笑顔で出迎えてくれた。
信孝のダチは俺のダチだ。俺一人暮らしだし、うちに泊まればいい。ホテル代が浮くだろう。遼は二つ返事で引き受けてくれた。
「昆さんお世話になります」
ぺこりと頭を下げると、一人の男の子が恥ずかしそうにもじもじしながら遼の後ろからひょっこりと顔を出した。
「あれ?信孝に似てる」
「お兄ちゃんもそう思った?実は私もよ」
「似てて当たり前だ。彼は信孝の弟、龍成だ。龍成、挨拶は?」
顔を真っ赤にしささっと隠れてしまった。
「別に恥ずかしがり屋じゃないんだけど、緊張しているみたいだ。悪く思わないでくれ」
遼の案内で駅構内を歩いているとき、手に温かななにかが触れてきて。どきっとして下を見ると、龍が恥ずかしそうに俯き、手を差し出していた。
「龍成はエスカレーターがどういう訳か苦手なんだ。悪いが手を握って一緒に下りてもらえないか?俺より光希の方がいいみたいだ」
「分かりました。龍成くん、俺でいいの?」
こくりと頷く龍。
「光希さん以外の人とは絶対にイヤ。死んでも握りたくない」
意志の強そうな眼差しを向けられ、胸がどきっとした。
龍はみんなに十三歳のとき八歳年上の俺に恋をしたって言ってるけど、本当は初めて会ったときから俺のことを嫁にする。兄貴には絶対に渡さないと決心し、ライバル心をめらめらと燃やしていたみたいだった。
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