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支配のそのさき。

「――フッ、凄いですね。気持ち良くてお漏らしするなんて。そんなにこれが良かったんですね?」 「うぅっ…はぁはぁ……!」  あいつは俺の耳元で怪しく囁くと、いきなりアソコに触ってきた。その瞬間ゾクゾクするような快感が、電気のように身体中を駆け巡った。 「っぁあ…! んっっ…! やっ、やめ…――!」  体が勝手にビクッと反応すると、あいつはニヤリと笑いながら低い声で話してきた。 「貴方って人は、つくづく淫乱で、そしてイケない人だ。ほら、また感じてる。本当に困った人ですねぇ――」 「はぁはぁ…! あ、阿川っ…! もうやめろ…! もうこれ以上は無理だっ…!!」  辛すぎて涙すると精神的に限界にきた。だが、さらに行為をエスカレートさせた。 一度始まったらあとには戻れない。俺は、それを今日という日に嫌って程に実感した。あいつの頭には今、俺をどうやって料理しようか考えているはずだ。そして、俺はそれを待つ。まな板の上の鯉のような気分だった。自分の意思とは無関係にあいつは俺をどう料理するか思いつくと次の段階へとことを進めた――。  阿川は俺の体の自由を奪い、体を弄んだ。しまいには、その行為はエスカレートした。もう止めらない。あいつは暴走した機関車のようにさらに突き進んでいった。そこには俺の意思とは関係なしに…――。  アイツは何も言わずに俺の側を離れると一端、喫煙所から出て行った。逃げるなら今しかないと思った俺は、ベルトで縛られた両手を外そうとベンチの上で暴れた。だが、どんなに引っ張っても体を左右に振ってもベルトは緩まなかった。  クソッ! 阿川の野郎…――!  あいつに対して腹ただしさを感じないといえば嘘になる。むしろ殴りたい気分だった。あいつに好き勝手に体を弄ばれた事に怒りとやるせなさを感た。それに平行してあいつの支配に呑み込まれそうなもう一人の自分がいた。  このままでは……。  このままでは、本当に自分じゃなくなる………。  その得たいの知れないような妙な支配は、このまま自分さえも、変わってしまいそうなそんな恐怖が心のどこかにはあった。きっと受け入れたらあいつに呑み込まれる。それが心のどこかにあった。だから俺は、あいつに何かされる前に逃げようと必死で足掻いた。蜘蛛の巣に囚われた蝶のように、必死にアイツから――。 「くそっ……! ちくしょうっ! 外れないっ!! くそっ、阿川の野郎っっ!!」  ベルトで縛られた両手はびくともしない。それどころか、暴れれば暴れるほどキリキリと両手が締め付けられた。 「はぁはぁ…! だっ、だめだ…! くそっ……! だっ、だれかっ!!」  喫煙所の中に閉じ込められた俺は、中から外に向かって声を上げて助けを求めた。だが、外は暗闇だ。しかも真夜中だ。駅の周辺には、人が歩いてる姿さえもなかった。声を上げて助けを求める程に段々と虚しさだけが増した。こんなところにアイツと一緒にいるだけでも恐怖はさらに増し続けた。 「誰でもいいから俺を助けろ! 助けてくれっ!! だれかぁ――っつ!!」  極限状態に追い詰められると、大きな声を上げて叫んだ。するとガラッと喫煙所の扉が開いた。扉の前には阿川が立っていた。暗闇の中、ただ不気味に静かに笑っていた。あいつが再び戻ってくると身体中が一気にゾクッとなった。扉を閉めると笑いながら一言、「ダメじゃないですか」と言って笑いかけた。 「葛城さん、ダメじゃないですか。そんな大きな声を出して。せっかく2人だけの時間なのにもっと楽しみましょうよ――?」 「楽しむだって……?」  その言葉に頭の中がカッとなると、咄嗟に感情的になって言い返した。

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