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残り火。
何であいついないんだろう?
人のこと無理やり犯した癖に逃げたのか?
阿川の野郎…………
朝、目を覚ますとあいつがいなかったことに無性に腹が立った。せめて謝罪の言葉があれば、少しは気が晴れたのかもしれない。
いや、違う……。
俺は……。
っ、阿川の野郎…――!
全身の痛みに付け加え、自分の中にあいつが刻まれた記憶が甦った。熱さと吐息と支配。強引に奪われた屈辱。そして、目眩がするような快感の連鎖は、俺の中にしっかりと刻まれていた。
俺のことを奪っておいてお前は…――。
そのあとどうやって家に帰ったかは覚えていない。ただ曖昧な記憶の中あいつの事だけが頭に浮かんだ。熱く疼いた身体に付け加え、全身に残る痛みを感じながらも、玄関の前で鍵で開けると中に入った。そしてどっと疲れた溜め息をついた。
ああ、色々疲れた……。
扉の前で深いため息をつくと、持っている鞄を床に放り出して、首のネクタイを緩めると片手で外した。そして、着ていた上着を脱ぎ捨てるとそのまま風呂場に直行した。そして、シャワーを浴びながら体の汚れを落とした。でも、汚れが落ちた気がしなかった。
身体中にはあいつが付けた跡が点々と残っていた。鏡に映った自分の体を見ながら首筋に付けられた跡を擦った。でも、それは擦っても落ちなかった。赤い跡がまるで、俺の体はあいつのモノだと言っているような気がした。
「ふっ…――」
その瞬間、体から力が抜けるとタイルの上に膝からペタンと落ちて座り込んだ。我ながらに情けないな。同じ男にレイプされて、その相手が自分の一番、嫌いな奴だったなんてお笑い草もいい所だ…――。
しかもこんな事は誰にも話せない。自分は一生、普通の人間でまっとうするはずたったのに、こんなのは自分にとってタダの汚点だ。しかも、最後は自分からあいつを求めてしました。そう思うと腹ただしさと、屈辱感と、やり場のない思いが一気に混み上がった。
あいつは俺のことを好きだと抜かした。俺は男なのにあいつはおかしい。あいつの気持ちに、どうやって応えろっていうんだ…――!?
そんなのは駄目だ……! 間違っている……!
そんなのは…――!
頭の中はあいつの事でグチャグチャになっていた。もうパンク寸前だ。考えるだけでも倒れそうだった。タイルの上に座り込むと、上から降り注ぐシャワーの雨に濡れた。そして、急に悲しみが胸の奥を襲った。
「どうかしているっ……!!」
悲しみが胸の中に広がると、俺は訳もわからず涙に暮れた――。
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