48 / 100

空白の時間。

 もう思い残すことは何もない。それに阿川のことをこれ以上、考えなくて済む…――。  全部は自分のつまらない嫉妬だった。一人であいつに嫉妬して妬んで、そのたびに自分が嫌になって、嫌いになって、何もかもあいつのせいにした。きっと、その付けが回ったんだ。だからもうあいつのことは忘れよう。その方がいい。きっともう二度と、あいつと顔を合わすことはないだろう。  あの日の夜のことは全部、夢だった。俺は悪い夢を見ていたんだ。あいつが俺のことを好きって言ったのも夢で、あいつに抱かれたのも夢だ。あの日は本当は何もなかった。そして、阿川があの駅に一緒にいたのも夢だ。でなきゃ何であいつは次の日、起きたら俺の傍にいなかったんだろう。  俺は男だ。あいつの気持ちには応えられない。  応えられるはずは…――。 「うっ……!」  その瞬間、自分の頬に涙が零れ落ちた。  あの日から情緒不安定だ。  どうして悲しいのかも解らない。  なのに涙が勝手に落ちてくる。  自分の口を押さえると、そのまま涙を流した。  あの日からずっと泣いてばかりだ。きっとこれは、あいつのせいだ。そして、この胸の痛みも全部――。

ともだちにシェアしよう!