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この気持ちを言葉にするなら……。
「えっと…あとそうでした。葛城さんが来ない間に俺が代わりに仕事片付けておきました。だってそれって俺のせいでもありますし、それに放っておきますと、貴方の机にドンドン仕事が溜まると思いましたから。それに今だから言えますけど、戸田って結構イヤな奴なんですよね。貴方のことばかり嫌がらせしているの見れば俺だってわかりますよ」
アイツはそう言って話すと、頭を触りながら少し笑った。そして、再び真剣な表情で話した。
「だからお願いです葛城さん! 俺のせいで、ここを辞めないで下さい! 俺は貴方に辞めて欲しくないんですっ!!」
頭を下げると「辞めないで欲しい」と訴えてきた。その姿は心の底から謝罪の気持ちで溢れていた。俺は阿川の心から詫びる姿に心を乱された。そして、顔を覆うと深い溜め息をついた。
「……本当にお前ってヤツは勝手だな。全部、自分の勝手な都合ばかりだ。俺の気持ちも知らないで、よくそんなことが言えるな――」
「葛城さん…――」
アイツが頭を上げると、俺は真っ直ぐな眼でジッと見つめた。
「お前にひとつ聞きたいことがある。どうしてあの時…――」
「あの時……?」
阿川は不思議そうに返事をして見てた。俺は胸の奥でずっとモヤモヤしていたアルことを口にした。
「あの時、俺を無理やり抱いた夜。どうしてお前は次の朝、俺の隣に居なかったんだ…――?」
「えっ……?」
その質問に唖然となると、アイツは下をうつ向いて暫く黙り込んだ。
「そのことですか…――」
「ああ、そうだ。答えろよ」
その場で問い詰めるとアイツは俺に背中を向けた。そして、空を仰いでボソッと話した。
「俺はですね、こう見えて臆病だったりするんです。知ってましたか?」
「阿川……?」
「あの時は勢いで貴方に酷いことしてしまったけど、貴方を抱いたあと自分の罪悪感に耐えられなくなったんです……。何より、葛城さんが目を覚ましたあとが怖かった。葛城さんのことがずっと好きだったから。だから貴方に嫌われるのが一番怖かった。あんな大胆な事した癖に何言ってるんだって感じなんですけど。でも貴方の口から嫌いって言われたら、まともに立ち直れそうにもなかったんで、だからあの時は貴方から逃げてしまいました……」
「おまえ…――」
「ごめんなさい、最低ですよね? 好きだとか言って無理やり抱いたヤツが目を覚ましたら隣に居なかったなら、俺が貴方でも怒りますよ…――」
アイツは俺に背中を向けたまま、自分の思いを打ち明けた。その話を聞かされると再びため息をついた。そして、自分の顔を片手で押さえて呆れた。
――正直驚いた。俺に散々酷いことした癖に、あれは臆病者がする域を越えていた。むしろ「怖さ」を知らない者がすることだ。大胆で恐れすら知らない――。なのにあいつは俺にした事が怖くなってあの時、逃げ出した理由は嫌われるのが怖かっただと……?
俺はそれを聞いて呆れた。そして、あいつのことを変なヤツと思ったのと同時に、意外に気が小さい所もあるのだと知った。そう思うと自分の中でスッと怒りが治まってきた。そこで拍子抜けすると俺はあいつの目の前で力が抜けたように呆れて笑った。
「おかしいですよね。あんな大胆なことしたのに貴方に嫌われるのが怖かったから逃げ出すなんて。あんなのは卑怯者がすることですよね。自分でも、それは解っています。でもあの時はそうでもしないと自分がダメでした…――」
阿川はそう言って話すと後ろを振り向いて俺の瞳をジッと見つめてきた。その強い眼差しに惹かれると、俺もアイツの瞳を見つめ返した。
「……お前がとんだ臆病者だったとはな。あんなことした癖にホント聞いて呆れた。俺は少なくてもあの時、お前が隣にいたら許すことも出来たんだぞ」
「えっ…――?」
ボソッと呟くと見つめた瞳を僅かに反らした。
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