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嘘と切なさの間。
反らした瞳を彼に向けると、その場で自分の思いを口にした。
「阿川、俺はお前の気持ちには応えられない。これが俺が出した答えだ――」
「葛城さん……」
その言葉にアイツは一瞬、悲しげに顔を曇らせた。
「俺は男でお前も男だ。同じ同性を好きになれるお前とは違う。俺達がしようとしている事は本来間違ってる事だ。それにお前は俺よりも年下じゃないか。好きだの愛してるだのそれは、一時的な感情かも知れないだろ…――?」
真っ直ぐな目で話すと決してその瞳を反らすことはなかった。その瞳の奥は研ぎ澄まされた刃のように、まるで無感情に等しかった。阿川は俺の前でショックの色が隠せなかった。呆然とした表情で佇んでいた。お互いに口を閉ざすと二人の間には空しい時間だけが流れた。
「俺達は一時の感情に流される程、もう子供じゃないんだ。人生はまだこれからなんだ。こんなところで、道を踏み外す暇があったら真っ当な大人になれ――!」
最後にそう言い残すと、自分からアイツの前から去ろうと背中を向けた。
「……酷いな葛城さん。今のはちょっと俺でも傷つきましたよ。俺は貴方が好きです。だから貴方の本当の気持ちを教えて下さい。今のは本心ですか?」
その言葉にピタリと足が止まった。そして、僅かに身体を震わせた。言葉を詰まらすと、一言「ああ」と返事をした。その瞬間、阿川は後ろから俺の事を抱き締めてきた。
「葛城さんお願いです…――! 俺から逃げないで下さい! 俺は貴方の本心が知りたいです! だから嘘なんかつかないで、ちゃんと俺に……!」
「はっ、離せっ…――! この腕を離せと言ってるんだっ!!」
「嫌です! 離しません! 離したくありません!」
アイツは後ろからギュッと俺の事を抱き締めると、その力強い腕はまるで頑丈な檻のようだった。自分を閉じ込めて離さないその腕に抱きしめられると、心が一気にかき乱された。
「阿川やめてくれ…! 頼むからこれ以上、俺の心をかき乱すなっ!!」
「えっ…――?」
耐えきれずに口走るとアイツは抱き締めてきた腕を離した。閉じ込められた腕から解放されると、息を切らしたまま酷く動揺した。阿川に対してこの気持ちが何なのか本当は解っていた。だけどそれを自分自身が知るのが怖かった。そして、その気持ちを受け入れてしまうことに恐れすら感じていた。
同性を好きになった事がない俺にはアイツの気持ちを受け入れることは、簡単な事ではなく、難しいことだった。そして、今までの自分を変えるには勇気がいることだった。俺は阿川の気持ちを知っていながらもそれを冷たく跳ね除けることしか出来なかった――。
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