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その時、彼は――(阿川side)

――家に帰宅した後、何もせずにベッドの上で一日中 彼のことを考えた。  黙ってそのまま帰ってしまって、きっと今頃怒ってるだろうなとか……。  もう俺の顔も見たくないんだろうなとか……。  ここのまま絶縁で終わるかも知れないとか……。  色々と最悪な事だけが頭の中をグルグルと回った。今までこんな気持ちには、一度もなった事もないのに、何で俺の胸はこんなに苦しいのか……。  そう思ったら頭の中に彼の顔が浮かんだ。葛城さんは、俺が初めて誰かを本気で愛したいと思える男《ひと》だった。本人は気づいてないかも知れないけど、俺はずっと彼の事を見ていた。  偉そうで負けず嫌いで、だけど仕事に一生懸命で、嫌みな課長に文句を言われても黙って仕事するような真面目な人だった。本当は悔しい思いを沢山しているのに、だけどそれを表に出さない所とか、そんな彼の姿を見ているうちに段々と心が惹かれた。  俺はずっと彼の姿を見ていた。そして気が付いたらいつも目で追っていた。最初は遠くから見ているだけでも良かった。なのにその気持ちが段々と強くなっていったら、彼を見ているだけじゃ物足りなくなった。  葛城さんがその手のタイプじゃないことは初めからわかっていた。だけど分っていても、自分のこの気持ちを抑えることは出来なかった。だから心の底では、彼をどうしたら自分のモノに出来るかを考えていた。だから彼に彼女がいるって知った時は嫉妬した。俺はそれ程までに彼の事を自分のモノにしたかった。  そんなこと本人には言えないけど、葛城さんの全てが欲しかった。ただそれだけだった。なのに俺は、間違ったやり方で彼の愛を手に入れようとした。だからきっとこれは自分への「罰」なのかも知れない。  きっと葛城さん、俺が原因でこのまま会社を辞めて退職しちゃうんじゃないかと頭の中に過った。あんなことがあったのに、そんなヤツと同じ会社に勤めたい奴なんかいない。俺が葛城さんの立場ならそうする。  葛城さんはいつだって真面目な人だから…――。

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