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その時、彼は――(阿川side)

 翌日、彼が来ていることを祈って会社に出勤した。こんな思いは初めてだ。朝からパリッとしない気分だった。「憂鬱」。いや、そう言った感情とはまた、別の感情だ。  彼に会ったらどんな顔をしたらいいのか、そんなのは後回しだった。この場合、彼が来ているかが問題だった。来ていなかった時の落胆は大きい。自分が、彼を傷つけてしまったから、そっちの方が余計に心配だった。  彼のことが頭から離れたい状態で会社に出勤した。そして、職場に着くなり。真っ先に部署の壁に貼られていた出勤ボードを見て確認した。  不安な気持ちになりながら葛城さんが来ているかを確認した。だけどまだ来ていなかった。いつもだったらこの時間帯に必ず出勤して来ているのに、彼はまだ来ていなかった。彼がまだ来ていない事が解るとふと溜め息をついた。 「葛城さん、まだ来てない…――」  ボソっと出勤ボードの前で呟くと、落胆した足取りで自分のディスクへと向かって歩いた。斜め向かいが彼が使っている場所だった。俺は斜め向かいのデスクから、彼が使っている机を溜め息混じりで見つめた。

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