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その時、彼は――(阿川side)
――その日、葛城さんは来なかった。そして俺は彼がいない席を呆然と見ては、深い溜め息ばかりをついていた。
「もしかしたら明日は来るかもしれない……」なんて甘い期待を心のどこかでしていた。だけどその次の日も彼は会社には来なかった。そして、彼の机の上には仕事の量が増えていった。色々な書類とかが、徐々に溜まっていった。
毎日彼のことばかりを考えていたので、自分の仕事もなかなかはかどらなかった。だけどこのままほっとくと、彼が出勤した時に大変な事になっているから、誰もいない時にこっそりと彼のデスクから、置かれていた書類のファイルを持ち出しては、自分の机で彼の仕事を代わりにやった。俺は仕事だけは人よりも早く出きる方だった。だから自分の仕事を早く済ませると彼の仕事をテキパキと片付けた。
――夜の9時頃、暗がりで一人で残業していた。誰もいない部署は静かだった。朝は電話の音とか雑音とか人が喋っている声とかで朝は朝で騒がしい。だけど、夜は誰もいないから静かだった。それに静かだと仕事もはかどる。俺は暗がりの中でパソコンを打って報告書を作成した。そして、一息入れようと思い。自分の席を立つと時計は10時を過ぎていた。
オフィスに置いてあるコーヒーマシンの前で、一息ついた。温かいコーヒーを飲みながら、不意に彼の顔が頭の中に過った。そして、胸の奥がぎゅと切なくなった。
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