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その時、彼は――(阿川side)

 彼が来ないまま、4日が過ぎた。今までこんなことなんて一度もなかった。なのに彼は、未だに来ない。そして、もどかしい想いだけが毎日募った。この際、おもいきって自分から会いたい行こうとした。だけど嫌われるのが怖くて、彼の家に行ってみる勇気が踏み出せずにいた。 「これでよしと…! これなら、葛城さんが会社に来た時に大丈夫だ。あとは最後にこれを…――」   その瞬間、持っていたペンをデスクの上に置き、椅子の上で深い溜め息をついた。彼が会社に来なくなって4日目が過ぎた。その時すでに周りの人達は、彼の事で噂をしていた。誰かが近くで噂をしていた。 「葛城、最近来ないよな? もしかしてあいつ、このまま辞めるのか? でも、あいつが辞めても戸田課長は喜ぶけどな!」  ある日、オフィスの通路で誰がそう言って彼の事をを冷やかしていた。俺は我慢ならなくなると、無言でそいつのネクタイを掴んで睨見つけた。  だって腹が立った。どうしようもない。つい感情的になると、俺はそいつに向かって「彼のことで悪口言ったら俺が許さない!」とムキになりながらそう言ってしまった。  我ながら大人げない。だけど彼の悪口を言う奴は、俺は許せなかった。そしてその日は、自分でやってしまったと反省した。だけど周りがザワつくのは解る。彼みたいな真面目な人が、急に職場に来なくなったら噂をするさ。だけどその原因が俺だとは周りには言えない。そんな時、我ながら自分が情けない…――。

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