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その時、彼は――(阿川side)
色々と考えて紙に書いた言葉が「全部終わってます」だった。これが一番、妥協かも知れない。これを見れば葛城さんも安心するだろう。本当は直接、本人に言えば楽なんだけどな…――。
クシャ。
そこで深いため息をつくと、デスクの上に置いてあった紙切れを握り締めた。ため息ばかりをつくと、 胸が急に切なくなった。そう思うと彼のことばかりを考えていた。
……やっぱり、このままじゃまずいよな。
そう思った時、体が自然と動いた。椅子から立ち上がると自分の鞄を持って、俺は誰もいない部署を後にした。そして、自分の気持ちを抑えられなくなると、そのまま彼に会いに行こうと決めた。
夜の9時頃。仕事帰りに葛城さんの家に向かった。自転車を走らせながら、色々と頭の中で考えた。彼に会って何て言おうとか、いきなり会いに来たらまずいよなとかマイナスなことばかり頭に浮かんだ。だけどこのまま、彼に会わないわけにもいかない。ここは、思いきって彼と向き合うべきだ。
ふとそう思いながら自転車を走らせた。ずっと前に一度、彼の家に来た事がある。でも、その時は会社の飲み会だった。その時は葛城さんが酷く酔っ払ってて俺は彼を家まで送り届けた。その時に一度だけ、来たことがある。彼が住んでるマンションの前で自転車を停めると直ぐに中に入ろうとした。だけど中々、入る勇気がでない。
勝手に来たら何しに来たって怒られそう。その前に顔も会わせてくれないかも。でも、このまま帰ったら何も変わらないよな……。せめてちゃんと彼には謝りたい。
「クソッ、どうしたら…――!」
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