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その時、彼は――(阿川side)

――ほんの少しの勇気がでずに、彼の家の前で途方に暮れた。そして、気がつけば腕時計は30分も過ぎていた。  30分も一人で途方に暮れている。  ダサいよな……。  何で俺、こんな簡単なことに30分も悩んでるんだろう。出入り口にあるインターホンを押せばいいだけなのに、俺って度胸がないの……。  もう諦めて帰――あっ……!?  その瞬間、遠くの方から彼がこっちに向かって来るのが見えた。彼は手に買い物袋を下げていた。その顔は浮かないような、暗く沈んだ表情だった。彼と鉢合わせしたらマズいと思い、とっさに隠れてしまった。  ヤバい、とっさに隠れてしまった……!  これはチャンスだったのに、俺って馬鹿だ……!  彼が買い物袋を下げてこっちに向かって来ると近くの物陰に隠れてしまった。何をやってるんだ俺はと、自分に向かってしまったと呟いた。これじゃあ、逆に気まずいだけなのに…――!  そう言って物陰の中で頭を抱えた。そして、深呼吸してからソッと彼の姿を眺めた。久しぶりに彼の姿を見た気がした。だけどその表情は暗く、少し頬が窶れていた。それに元気もなさそうだ。もしかして、俺が原因……? ――いや、きっと俺が原因だ。葛城さんが俺のことで悩んで、窶れている姿をみると急に胸が痛くなった。

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