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その時、彼は――(阿川side)

 窶れている彼の姿を見て、声をかける勇気が出なかった。そして、そこで不意に思った。今の俺は彼にとって、悩みの原因でしかないことに気づいた。  俺は葛城さんが好きだ。  だけどその想いは、彼には悩みの原因でしかない。  それにきっと……。  彼の姿を物陰からコッソリ見ていると、声をかける勇気もなく、ただ彼がマンションの中に入って行くのを見ていることしか出来なかった。そして俺は自分の中で答えを出した。どうしたら葛城さんが、あんな顔をしなくて済むのかを…――。  声もかけれずに彼の姿を切ない気持ちのまま黙って見送ると、その場から離れて自分の家に戻った。その夜、葛城さんの窶れた姿を見て。俺は彼に一度も会う事もなく自分の家に帰宅した。そして、暗がりの部屋の中でソファの椅子に座ると溜め息混じりで考えた。  きっと俺は葛城さんにとって悩みでしかない。俺があそこにいる限り、彼は会社には来れない。そしてきっとこのまま辞めてくんだろうな。 ……しんどい。  俺の"好き"って気持ちは、彼には迷惑何だろうな。  確かに葛城さんはゲイでもない。  だけど俺はゲイだ。  同性を好きになった事がない彼には、俺の気持ちは受入れる事が難しく、ただ気持ちの悪い存在なんだろうな……。 「辛い…――」  静かな部屋でソファに座ったまま、膝を抱えて肩を落とした。そして、切ないため息ばかりが出て、胸がぎゅっと締め付けられた。そして、彼へのこの気持ちをどうすればいいのかを悩んだ。

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