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その時、彼は――(阿川side)

 一週間が過ぎた頃、俺はいつも通りの時間帯に家を出た。そして、電車に乗って会社に出勤した。心の中では既に覚悟を決めていた。彼が出勤したら、ここを辞めようと決めていた。そして、俺は偶然に彼の姿を見た。駅の改札口の近くに喫煙所があった。葛城さんはそこでタバコを吸っていた。久しぶりに彼のスーツ姿を見た気がした。  一瞬、彼に声をかけようとした。だけど、いきなり声をかけたら驚くと思った。それに葛城さんは俺の顔なんて見たくないはずだ。そう思ったら急に胸が痛くなった。そして、声もかける事もなく、その場から黙って立ち去った。  葛城さんの出勤した姿を確認すると、先に会社へと着いた。そして、自分のデスクに向かうと引き出しにしまった退職届を出して、それを手に持って戸田課長のオフィスへと向かった。扉をノックすると、中から返事が返ってきた。扉の前で一言挨拶をすると中に入った。 「――失礼します。戸田課長、突然ですが大事な話があります」 「おお、阿川君か!? おはよう、朝から早く会社に出勤とは若いのに良い心構えだな。さすが我が部署の期待の新人だ! キミの実績には私も一目置いているんだよ。それにキミは他とは違って営業マンとしてのずば抜けた才能がある。それにこの前のプレゼンは、実に素晴らしかったよ!」  戸田課長は俺の顔を見るなり上機嫌に話してきた。 「そうそう、キミのプレゼンした内容を経営企画部の木ノ下課長にこの前話したら、興味があるみたいでね。キミが良ければ今度一緒に木ノ下課長と三人で、居酒屋に飲みに行かないか?」  戸田課長はデスクの前でニコニコ顔で話してきた。だけど俺は、その話を遮るように話し出した。

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