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その時、彼は――(阿川side)

「戸田課長、お話しがあります!」  真剣な表情で話すと戸田課長は急に顔色を変えた。 「なっ、何だね阿川君いきなり…――? そんな恐い顔なんかして一体、どうし……」 『突然ですが、俺は今日で退職させて頂きます!!』 「なっ!?」  そう言って話すと自分の着ている上着から退職届を取り出して彼の机の上にバンと叩きつけた。目の前で退職届を叩きつけると戸田課長は一瞬、固まった表情でそれをジッと見た。そして、チラッと視線を落とすと、再び驚いた声を上げて唖然とした表情で俺の顔を見てきた。 「なっ、なんの……! これは一体、なんの真似だね阿川君…――!? たっ、退職だと……!? キミは本気で私に言っているのかねっ!?」  戸田課長は俺から退職するという話を聞いた途端に激しく動揺した。だが、自分の決意は堅かった。退職届を机の上に叩きつけたまま、瞳を真っ直ぐ向けるとその眼差しには強い信念を宿した。 「阿川君、キミは本気で…――!?」 「ええ、本気ですよ。俺は今日限りで、ここの会社を退職させて頂きます。だから何も聞かずにこれを受け取って頂きたいと思っています!」 「阿川君! キミはこの会社にとっては必要不可欠な人材何だぞ!?それを解って本気で言っているのか!? キミは自分の将来を無駄にする気か!?」  戸田課長は俺がいきなり辞めると言い出すと焦った表情で引き止めてきた。その焦り方は、さっきまでの余裕を感じさせなかった。そして、その顔は今まで見たことがないくらい必死だった。俺がここを辞めないようにと、あの手この手で説得しようとしてきた。

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