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その時、彼は――(阿川side)

「無駄ですよ、俺はもう辞めるって決めてたんです。別に会社や課長に不満はないですけど、それでも俺は、ここを辞めたいんです! それも今直ぐにです!」 「なっ…――!?」  戸田課長は阿川の決意が堅くなだと知ると、顔から汗を流しながら必死で引き止めようとした。 「なっ、何で今すぐなんだ…――!? キミに今すぐここを辞められたら困る! それにキミが考えたあの営業企画書はどうするんだい!? 誰があれを…!」 「戸田課長、俺の気持ちは変わりません! 俺はもう決めたんです!」 「阿川君、どうか今一度考え直してくれないか!? 頼むからここを辞めないでくれ!」  そう言って話すと必死な顔で説得し続けた。すると阿川は、彼の胸ぐらを両手でグッと掴んで思いっきり引き寄せた。 「うるさい! ゴチャゴチャ言わずに、さっさと受けとれタヌキジジィっ!!」  阿川は彼の胸ぐらを両手でグイッと掴むと、睨みをきかせながら椅子から立たせた。その瞬間、戸田課長は今まで以上の強い衝撃に思わず、空いた口が塞がらなかった。そして、呆然と黙り込んで固まった。阿川は本音をつい口走ると、そこで掴んだ胸ぐらをパッと離した。そして、何もなかった様子でその場から立ち去った。阿川が部屋から出て行くと、戸田課長はそのまま床に崩れ落ちると両手をついて座り込んだ。その姿には女々しささえ漂った。

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