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短編2〜内緒のコレクション〜

 その場の雰囲気で迫ってみたら上手くかわされた。――ちぇっ、残念。このまま流れてキス出来たのに。葛城さんは見かけによらずシャイだな。ちょっと積極的過ぎたかな。彼は俺の側から離れると咳払いして、立ち上がった。その横顔は少し照れていた。怒った口調で言いながらも、俺の方をチラッと見てくるようなその仕草は何だかキュンと萌えた。 ――ああ、駄目だ。反則だ。 やっぱ可愛いなこの人、可愛い。  見かけによらずそのギャップは、俺の理性を一瞬にして吹っ飛ばそうとする。目の前にいる彼を床に押し倒して、今すぐ抱きたくなる衝動をグッと堪えた。 「ホントお前は油断も隙もならないな。そうやって、昼間から俺に迫るとか。お前元気ありすぎ何だよ!」 「そーですか? これでもフツーですよ。それに、隙だらけの貴方もイケないんじゃ?」 「ふん、お前に言われたくない……!」  葛城さんは、ちょっと怒った顔をするとキッチンへ向かった。俺は彼の後ろ姿を遠くから見ながら吹っ飛びそうになる理性を抑えた。 「……ちょっと怒らせちゃったかな。でも、あのままだったら危うくオオカミになる所だったな。葛城さんも少しは俺の事を気遣ってくれてもいいのに」  そう言って呟くと平静を装って飲みかけのコーヒーを飲み干した。彼はキッチンに立つと昼ご飯を作っていた。袖を腕まくりしてエプロンをつけてる姿はいつ見ても格好いいな。そのギャップにヒヨコ柄の可愛いエプロン姿は最強だ。口元が自然にニヤつくと、彼を遠くから眺めた。そして暫くすると昼ご飯ができた。 「ほら、ラーメン出来たぞ?」 「は~い♪」  明るく返事をすると、テーブルの椅子に座って箸を取った。良くみたら俺のラーメンは、味噌味じゃなく醤油味になっていた。それに気づくと然り気無く話しかけた。 「あ、葛城さん。俺の醤油になってますよ?」 「ああ、良いんだ。よく考えたら醤油ラーメンより、味噌ラーメンが食べたくなって来たから良いんだよ」 「そうなんですかぁ?」 「いいからさっさと食え、麺が伸びるぞ!」 「は~い! じゃあ、いただきまーす!」  彼は何だかんだ言っても口では厳しい反面、優しい所は沢山ある。それに今だって俺のお昼ご飯を作ってくれたり、自分が食べたい物を譲ってくれたりとか、彼のそう言う所は大人らしくて、俺は彼のことを益々好きになった。 「葛城さんは大人だなぁ……」 「ん? 何だって?」 「言え、別に何でもないですよ。いただきまーす!」  慌てて話を反らすとラーメンをすすって食べた。 「どうだ味は?」 「はい! すごく美味しいです! とくにラーメンの出汁が出ていて……!」 「お前大袈裟なんだよ。スープは市販のだぞ?」 「いや、そうじゃなくて。きっとこれは…――」  不意に目が止まるとラーメンの中に、彼の髪の毛が一本入っていた。 「あっ。ラーメンに髪の毛が」 「え? 本当か?」    髪の毛を箸で掬うとそれをテーブルの脇に置いた。

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