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短編3〜不機嫌と愛情〜
――お昼の時間になり。腹が空くと、アイツを昼飯に誘いに行った。アイツの事だから昼飯に誘えば尻尾を振ってくるだろうと思った。アイツを動物に例えたらどうみても属性は犬 だな。俺が誘っても誘わなくても勝手についてくるし、たまに犬 みたいに懐いてくる。アイツの様子を見に行ったら阿川は女子社員に囲まれていた。
『ねーねー、阿川君! 今朝手作りお弁当作ってきたんだけど良かったら食べる?』
『アタシもアタシも! 今朝頑張って作ったから阿川君、アタシのも食べてよ!?』
『ちょっと~! 私が先よ! あんた横からズルこみしないでよ!』
『ねー! 阿川っち、由美と一緒にランチに行こうよ!?』
『あー! 慶介君を一人でランチに誘うのは無しってあんたが言ったじゃない! あんた約束守りなさいよ!!』
アイツはデスクの前で女子社員に囲まれながら愛想笑いをして頭をかいていた。まさにモテモテの男って雰囲気だった。確かにアイツは外見は爽やかで、好青年で、明るいし、身長も高いし、顔だって悪くない。整った顔立ちだから尚更女子には人気があった。それに性格もいいから、あの手のタイプはどの人間にも好かれる。アイツが女子に囲まれてる所を見ながら離れた所でジッと見ていた。
この感じだとアイツと昼飯は無理そうだな。柏木か萩原でも昼飯に誘うかな――。
「ふん、阿川のヤツ。女子に囲まれてデレデレなんぞしやがって…――!」
軽く舌打ちすると、その場から離れようとした。
「阿川君ったら聞いてる~? 私のお弁当食べてくれるよね!?」
「ああ、そーですね……。」
アイツは頭をかきながら困った顔をしていた。俺はイラッとなると、女子社員を遠目から睨んだ。
アイツら阿川が困ってるのに強引過ぎるだろ。
それにアイツもアイツで直ぐに断れよ――!
そこで俺はつまらない嫉妬をすると急に虚しくなってきた。アイツは彼女達から手作り弁当を受けとると、愛想笑いしてその場を済ませた。そして、疲れた溜め息をついていた。
「あ、葛城さん…――!?」
そこで目が合うと、俺は思わず顔を反らした。
「そこに居たなら声くらいかけてくださいよ。彼女達に囲まれて、俺大変だったんですよ?」
アイツはそう言って苦笑いして俺の所にきた。
「――お前、モテモテだったな。それにそんな物まで貰って。俺ですら、女子社員に囲まれた事なんかないのに随分と人気があるんだな?」
「まあ、そうですね。俺って結構、異姓には人気ありますよ。やっぱ顔立ちが整ってるからかな?」
アイツはそう言ってフザケ半分で自慢してきた。俺は無言で奴の事をジーっと見た。阿川は、しまったと言わんばかりの表情をすると軽く咳払いをして誤魔化した。
「そうだ! 今から一緒にランチでもどうですか?」
「お前、彼女達から貰った手作り弁当があるだろ? 俺は一人で昼飯食べるからついて来るな!」
「あ、大丈夫ですよ。俺、彼女達から貰ったお弁当は食べませんから。捨てればバレませんよ。」
「お前な! 人が一生懸命作った弁当を簡単に捨てるとか言うな、可哀想だろ!?」
「そーですか? そーなんですか? 可哀想ですかねぇ? じゃあ、俺が彼女達から貰ったお弁当食べても怒りませんか?」
「ッ…――!」
「ほら、やっぱり。貴方は顔に出やすいタイプだからわかります。それにホントは彼女達に嫉妬してるんですよね?」
「なっ…!?」
「アハハッ、やっぱ可愛い人ですね貴方は。俺に嫉妬してくれるなんて……。ここがオフィスじゃなく俺の家なら今頃、貴方を抱いてますよ?」
アイツはそう言って迫って来ると、俺の顎を指先でクイッと上に向けてきた。急に動揺すると、顔を反らした。
「ばっ…! バカっ!! 誰がお前に嫉妬なんかするかよ!!」
「嘘ばっかり。今だってホラ、動揺してる。ホントに可愛いですね葛城さんは…―――」
「だっ、誰が……!」
いきなり阿川に迫られると、わけもわからずに顔が火照った。そして、剥きになると言い返した。
「ああ、そうだよ! 嫉妬して悪かったな…――!」
そう言って剥きになって言い返すと、アイツの手を振り払った。そして、目の前から逃げ出した。阿川は後ろから走ってくると手を掴んで抱き締めてきた。
「ゴメン……! ちょっと貴方が可愛くて、からかいました! 調子に乗ってすみません…――!」
「……阿川」
「仲直りのキスしてもいいですか?」
「ッ…――。お前なぁ。そんな台詞言って恥ずかしくないのか? ここを何処だと思って……」
「あれ? 知りませんでしたか? 俺は貴方の前ならいくらだって愚かになります。ほら、今だって――」
そう言って唇を塞いできた。そして、両腕で抱き締めてくるとそのままキスしてきた。俺は流されると、ここが何処かも忘れてアイツと夢中でキスをした。
「ンッ…阿川っ……」
「フフフッ。可愛いな葛城さん。今の顔は誰にも見せないで下さいね?」
「ッ……! バカか…――!」
アイツはそう言ってからかってきた。
「見せるわけないだろ。俺にこんな事するのは、お前しかいないんだからな……!?」
「当然です。貴方にキスして良いのは俺だけですよ」
「随分、自信家だな?」
「さ! 早く一緒にお昼ご飯たべましょ? 俺もお腹ペコペコです」
「…――じゃあ、昼飯さっきの弁当食べるか? 2人分はあるだろ?」
「え……?」
「いいから貸せ……!」
俺はアイツと一緒に屋上に行くと、彼女達が作った手作り弁当を食べた。阿川は不思議そうに俺の事を見ていた。弁当を食べ終わると不意に隣で話した。
「――今度からは断れよ。俺がお前の分の弁当作ってやるから…! べ、別にお前の為じゃないぞっ!? 俺が食べたいから作るわけで、お前の為に弁当を作るんじゃないんだからな!!」
そう言って話すと顔が急に赤くなった。アイツは、隣で笑い出すとお腹を抱えて笑った。
「アハハッ! 葛城さん何も俺、一言も言ってないじゃないですか! あーおかしい!」
「コラ! いきなり笑うなっ!!」
「やっぱ貴方は可愛い人だなぁ――」
『お前うるさいっ!!』
「わかりました! じゃあ、愛妻弁当を楽しみにしてますね! そうだ! 玉子焼もお願いします! 愛妻弁当には玉子焼が定番ですし!」
「愛妻弁当って言うな恥ずかしい…――!」
「え~? 言いじゃないですか。別に減るもんじゃないんですし、いいですよね?」
『減るっ!!』
アイツがフザケながら俺に言うと、ムッとして弁当の蓋を投げつけた。
「もー怒った! お前の分は作ってやらないからな!?」
「葛城さん怒らないで下さいよ~! 今のはホンノ、冗談です! 貴方の手作り弁当、めちゃくちゃ嬉しいです!!」
「当然だ! 恋人が作った弁当のほうが、美味しいに決まってるだろ!?」
「あ、今の惚気 ですか?」
「ばっ、バカ…! うるさい! 誰がノロケるか!」
そこで言い合うと、気づいたらお昼休みが終わっていた。青空が広がる昼間の真下で俺達はフザケあうと然り気無く手を繋いで屋上から出て仕事に戻った。
――アイツは俺の耳元でお弁当作ってきて下さいねと念押しで言ってくると「ハイハイ、わかった」と呆れた顔で返事をした。阿川はニコッと笑ってきた。何だかその笑顔に連れて俺も自然に口元が緩むと、呆れた表情で笑い返した。ちょっとした事で嫉妬したり、怒ったり、その度に俺達は愛を確かめあった。
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