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短編4〜彼との幸せな瞬間。

「やりましたね、あのFW(フォワード)! なかなか良い動きしてますよ! あとWG(ウイング)の反応もいいですね。これなら、あと1点くらい前半で取れそうですよ!」 「おい、阿川……!」 「はい――?」 「今日は…今日は早く寝るぞ…! いいな…!?」 「えっ? あの、まだ9時ですけど??」 「いいから今日はさっさと寝るんだよ!」  葛城さんは箸を置くと、テーブルをバンと叩いた。 「ど、どうしたんですか…いきなり? サッカー嫌いでしたか?」 「そうじゃない。でも、今日は早く寝るんだ。テレビなら録画すれば良いだろ!?」 「え、いや。でも…――」 「お前。俺としたくないのか?」 『なっ…!?』  その瞬間、その言葉の意味を察した。 「え? それはつまり……??」 「早く寝るなら、その…してやっても構わないぞ?」  葛城さんは目の前で顔を赤くすると、真っ直ぐ見てきた。俺はその言葉に息を呑むとそそくさとテレビのリモコンを手にとって録画モードにした。 「あー。そういえば今日は疲れちゃいましたから一緒に早く寝ましょうか!? うん、そうしましょう!」  珍しく彼から誘われると、頭をかきながら何喰わぬ顔でそう言って返事をした。そして、ご飯を早く食べ終わると急いで寝る準備をした。葛城さんは、普段は自分から誘って来ないタイプだったから珍しかった。二人でぎこちない雰囲気になると、葛城さんは洗った食器を片付けながら俺に聞いてきた。 「――やっぱやめるか。お前サッカー観たいんだろ?」 「えっ…!?」 「本当はちょっと意地悪言っただけだ。お前がさっきからサッカーの話しばかりするから、その…つまらなかったんだよ。俺だって、お前が他の話しばかりしてたら嫌だしさ…――」  急に葛城さんが可愛い事を言いはじめてきた。それは反則ですよと、心の中で呟いた。照れたり怒ったり急に可愛くなったりと、彼の色々な一面を見て、心のスイッチが暴走仕掛ける手前まで一気に煽られた。  そんな彼の事が堪らずに愛しくて欲しくなると、ぎゅっと後ろから抱き締めた。 「――可愛いなぁ、信一さん。そんな風に煽られたら俺だって我慢出来なくなりますよ?」 「だっ、誰も煽ってなんか……!」 「俺がサッカーの話しばかりして、貴方の事をほったらかしにしてたから寂しくなったんですね? でも、そんな風に可愛くいじけて見せるのは、俺だけにして下さいね。でないと他の奴にそんな風にいじけて見せたら、その相手を嫉妬で殴っちゃいますから――」 「えっ……?」  強い独占欲を見せると、彼の唇をキスで塞いで黙らせた。そして、抱きあげるとそのままベッドに運んで降ろした。葛城さんは恥ずかしそうに顔を赤くすると自分から胸元のボタンを外した。目の前で、抱きたい気持ちが抑えられなくなると、そのまま覆い被さって彼をベッドに沈めた。 「――貴方からさきに誘ってきたんだから、覚悟して下さいね?」 「ッ…ばかっ…! いいから早く脱がせろよ……!」  彼は顔を赤くしたまま恥ずかしそうに言い返した。そして俺の事を急かして欲しがってきた。そんな可愛い一面に心も煽られると「駄目だ。可愛い過ぎる」と言ってぎゅっと抱きしめると彼の着ているYシャツを脱がして深いキスをした。  耳元で「愛してます」と囁くと、葛城さんも照れた顔で恥ずかしそうに「愛してる」と返事をして、抱きしめ返した。その言葉に幸せな気持ちになると、俺の心は彼の愛で満たされた。そして観たかったサッカーの試合も忘れてベッドの中で二人で深く愛しあった――。 END

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