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行為の後になっても、彼はまだ広瀬の胸をいじってくる。それを、しつこいと押しのけると、「ひでぇな」といって苦笑している。「お前ってさ、あれだ、典型的な自己中心的な男。自分が出したらしたらもうよくなって、寝ちゃうっていう。後戯って大事だと思うけど」
東城に自己中心的とはいわれたくないものだが、確かに、広瀬は終わったらすっきりして眠くなる。東城はいつまでもぐずぐずと触ってきたり、話しかけてきたりする。どうかするとまた再燃することもある。
「こういうのは、どうかと思うんですけど」と広瀬は東城に抗議をした。
「こういうのって?」面白がっている。
「やってる最中に、俺が言いたくない言葉を言わせることです」怖い声を作ってみせた。
「言ってもらわないとわからないから、お願いしてるんだけどな」東城は笑顔のままだ。
「言わなくてもわかってるくせに、どうしてそういうこと」
「そのほうが、楽しめるだろ。お前だって、そのほうが感じやすくなるし。身体の反応がよくなる」と東城は答える。「こう、さ、触ってるだろ。お前に。そうすると、お前の身体がヒクって動くのがわかるんだ。もっとしてほしい、っていう声と一緒に。ああ、こういうこと言うとよろこぶんだな、お前の身体はって思って」東城の手がそういいながら広瀬の性器を動かす手つきをしてみせる。
広瀬は、その手をピシャッとたたいてやめさせた。
「ほんとは、もっといやらしいこと言ってほしいんだぜ」東城は叩かれた手で広瀬の頬をなでてくる。「してほしいこと全部言わせたい。お前の頭の中、俺とする恥ずかしいことでいっぱいにしてみたい」
「やっぱり、東城さん、その気があるんじゃないんですか」
「その気って、ああ、今日行ったSMの?」
広瀬はうなずく。「そういう、人をいじめて楽しむようなところ」
「いじめてるわけじゃないんだけどな。こういうのも、SMなのかな。誰でもこういうことしてそうだけどな。お前が苦手ってだけで。というか、お前だって苦手っていいながら、感じてるんだから、同じなんじゃないのか?」そこまで言って、わかったわかったと、あやまってくる。「そんな顔すんなよ。しないから。あんまりひどいんだったら、そうだな、それも言ってくれればやめるから」
気軽な口調だ。絶対にその場になったらやめないだろう。いや、ひどいと言えば言うほどそれをさせてきそうだった。
「だいたい、自分がやられて嫌なことは人にはしちゃだめだって習わなかったんですか」と広瀬が言った。
東城は、まだ面白がっている。「なんだ、それ?」
「だから、自分がされたら嫌でしょう」
「されたらって、お前が、俺に何をするんだ?」東城は重ねて聞いてくる。「お前が俺をしばるかなんかして、いやらしいこと言ってみろっていうのか?そんなことを?」東城がだんだんにやけてくるのがわかる。ああ、こんなこと言わなければよかったと広瀬は思った。なんだって、自分のいいように解釈するのだ、この男は。
「それいいな。想像しただけで、腰にくる。お前が俺に、恥ずかしいこと言ってみろって強要するんだろ。どんなこと言わされちゃうんだろうな、俺は。すげえやってみたい。今すぐやってもいいぜ、広瀬」
東城に手をつかまれて、下半身に押し当てられる。本人が言うとおり、そこは固くなりはじめている。広瀬は手をふりほどいた。
「そんなことは、誰も言ってないです」
寝ることにした。自分をからかってくる男を相手にはしたくない。それに、さっきまでさんざんしたのにまだしようとしてくるのは困る。自分も疲れて眠いのに、少しだけ身体の奥がうずいてしまったではないか。
「なんだ、つまんねえの」と東城は子供のようにいった。「もう、寝るのか?」
「はい。明日も仕事なので」
「ふうん」残念だな、と言いながら東城は身体をすりよせてきた。ああ、やめてほしい、と広瀬は思った。身体は正直で、反応してしまう。
「なあ、広瀬」東城がまだ話しかけてくる。手が優しく広瀬の髪をなでてくる。「今度、今までと違うやり方でやってみる?」彼はゲームやスポーツのようにセックスの話をする。
「しつこいですね。しません。俺は、したくないことはしないし、人にも強要するようなことはしないんです」
「残念だなあ。色々試してみたら楽しいかもしれないのに」
「楽しくなんかないです」
「なんでわかるんだよ」
「わかります。眠いんですから、邪魔しないでください」
「冷たいなあ、お前は。今度気が向いたらしような」
広瀬は無視した。そのうちやろうやろうと言われて不本意なことをさせられるんだろうな、と思いながら目を閉じた。
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