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何日か後、夜に東城は一人で再び先日訪ねた合法のSMクラブに行った。 追っていた『れいあ』が実は話を聞いた女性店長とかなり親しかったということ、後から店員から聞いたのだ。この前来た時にはそんな話は全くしていなかった。隠していることがあるのだろう。もう一度きちんと話を聞くつもりでいた。 店に入ろうとすると声が聞こえた。男女がもめる声だ。もみあう音もする。裏口だ。危ない地域なので暴行事件かもしれない。急いで走ると薄明かりの中で、女が3人くらいの男に捕らえられ、殴られていた。男の1人がなにかを振り回している。 東城は止めるよう大声を出した。相手は3人で武器をもっているので形勢は不利である。走りながら目で使えそうなものがないか探す。 「警察だ」とも言った。こういうとおさまる場合もあるにはある。この辺は地域がよくないので、期待通りに行かないことも多いが。 男たちがこちらを振り返る。状況判断をしているようだ。東城は一人だ。だが、警察と名乗っている。 1人が持っている何かを振りかぶって攻撃してきた。ヒュっと音が空気を割く。鞭だ。本物を実際に見るのははじめてだった。鞭の先端が東城の胸の前をかすめた。わずかに後ろにステップを踏んで下がる。次も繰り出された。あたったら痛そうだ、と思い、左によけた。 「おい、行くぞ!」 鞭の男に後ろから声がかかる。他の二人は女を置いて別方向に走り出した。鞭の男も2~3回それを振るうと、二人と同じ方向に走っていった。 残された女がうずくまっている。殴られたのだろう。 「大丈夫ですか?」 探していた店長のあやめだった。彼女は東城をみあげた。「ああ、この前の」 気温が高いのに身体がガタガタ震えていた。 「すぐに救急車を呼びます」 「そんなたいした傷ではないです。病院はだめです」あやめは震えるが気丈な声で答えた。そういいながら立ち上がった。かなり痛そうだ。特に背中をかばっている。あの鞭でうたれたのだろうか。 「口が固い知り合いの病院があります。そちらに行きますか?」と東城はいう。 あやめはかたくなに首を横に振った。「それほどの怪我ではありません」 「店に手当てできるものは?」 「お店は、今お客さまがいらしています。こんな様子で戻ったら騒ぎになります。ここで、少し休めば大丈夫ですから」 「でも、手当てをしないと。結構ひどい怪我ですよ。最寄の警察署には行けますか?きちんと対応させますよ。無礼なことはさせません」 それはもっと拒否される。「それでしたら、このまますぐに自分の家に帰ります」 東城は逡巡した。「じゃあ、俺の家に行きますか?」と思わず言った。言った後で、別な意味で警戒されると困るな、と思った あやめはその提案に驚いた顔をしている。「ご自宅って、いいんですか?」 「あー、えっと、とにかく手当てはしたほうがいいです。このままあなたの家に帰るのは、危険だとも思います。さっきの連中がいるかもしれないし。俺の家なら手当てできるくらいの救急用品はありますし、痛み止めの薬もあります。ただし、あなたの様子によっては知り合いの医者を呼ぶこともできます」 あやめは痛そうな顔の中にやや面白そうな表情をうかべた。そして、うなずいた。

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