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課長が最初にあいさつをした。そして、事件概要の説明前にお客さんを紹介する。
本庁の特別捜査チームのトップの福岡と竜崎ということだった。福岡は警視、竜崎は警部補と紹介された。宮田が君塚にささやいている。「あの、竜崎警部補、若そうに見えるけど何歳だと思う?」
君塚は会議中に私語を交わしたくはなさそうで困っている。
福岡はあいさつしたそうにそわそわしていたが課長がわざと遮り、事件概要と遺体の身元を説明するよう部下に命じた。
亡くなっていたのは近藤守彦。40代後半。元大手企業の技術部の課長。3ヶ月前に早期退職制度で退職。現在は無職。離婚暦があり現在は未婚。1人暮らし。
遺体の写真が正面の画面に映される。宮田が顔をしかめて下を向いた。この手の遺体の画像は嫌いなのだ。広瀬も好きではないが事件の理解には必要不可欠なので見る。
次の写真に会議室にはかすかにざわめきがおこった。死体の背中や臀部にはいく筋もの裂傷が走っていたのだ。思わず宮田も顔をあげた。前から撮った写真もでる。胸や腹部、ふとももにも同じ跡があった。手首にもぐるっと鬱血した跡がついている。
君塚が宮田にささやいている。「しばられて殴られたんですか?」
宮田は君塚にうなずいていた。「殺人事件かぁ」と宮田はぼやく。「自殺のほうが簡単だったな」
写真はどんどん変わっていく。スーツのタグや靴、ポケットに入っていたもの。それぞれの概要が述べられた。
会議の最後に課長がやっと福岡に話す時間を与えた。
福岡は広瀬の予想通り大きな声だった。声が大きい人が多い組織で大声には耐性があるはずなのだが、それでもうるさいと思う大きさだ。
本人は普通に出しているだろう声がかなり大きい。怒鳴ったらすごいことになりそうだ。
「みなさん、夜遅くにご苦労さん」と彼は言った。「さきほど課長から紹介があった福岡だ。ついこの前まで北海道に左遷されていたが、名前は福岡」
ここは笑うべきなのかどうかわからない空気が流れる。課長は額をおさえていた。部下の竜崎は軽くだが明らかにわかるようなため息をついている。どうやら最近の彼の定番の口上なのだろう。
「今度またいつ左遷されるかわからないから、今回の件はさっさと片付けたい。先ほどの写真だが、あ、ガイシャの写真。あの傷は、本人がSMクラブでつけた傷も入っていると思われる。詳しい報告前にいうが、今回のは殺しだ。ガイシャは、勤め先の機密情報を持ち出して売った。その後怖くなって逃げたところを、殺されたと俺はみている。殺したのは、機密情報を入手、売買している組織だ」
「福岡さん、憶測はやめてください」と課長が制した。
「そうそう今のは憶測だ。憶測ついでにいうと、この組織は、昨夜SMクラブの店長に暴行し、今朝はその店でボヤ騒ぎをおこしている。幸い大事には至らなかったが、その店長はこちらで説得して保護している。組織関連の情報は現在収集中だ。我々から大井戸署には情報を開示するので、大井戸署もぜひご協力をお願いする。殺人犯はぜひそちらで逮捕してほしい。組織はこちらで対応する」
広瀬は耳をそばだてた。SMクラブの店長とはあやめのことだ。お店がボヤ騒ぎとはなんだ。今朝、あやめは東城と店に行ったはずだ。
福岡からのあいさつはそこまでだった。組織や亡くなった近藤に関してわかっている情報は、データでわたしたとのことだった。
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