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夕方に東城からメールが入っていた。今日は家に帰ると入っていた。広瀬はその日の夜、報告を終えると久しぶりに東城の家に行った。
鍵をあけると既に灯りがついている。奥に行くとリビングにはクーラーががんがんかかっていた。
ソファーで東城が横になって眠っていた。こんなふうに寝落ちしているのは珍しいことだった。Tシャツとイージーパンツに着替えてはいる。家に帰って、風呂に入るまでが限界だったのだろう。
広瀬はクーラーを一旦切った。東城の肩をゆする。「東城さん。こんなところで寝てたら風邪ひきますよ」
しばらくゆさぶっていると、「ん」と声があがった。
顔をしかめている。じっとみていると目があいた。何度かまばたきしている。大きな手が顔をこすっている。
「おかえり」と彼はいった。身体をおこしはじめたので、その場をはなれた。
広瀬は東城のマンションの風呂にゆっくりはいって手足を伸ばした。
ここだけの話だが東城のマンションの中でこの浴室だけはかなり気に入っている。
浴槽は広く、温度が適度に保たれていて、ずっと中にいられる。以前、壁にあったボタンにうっかり触ったら気泡があちこちから出てきて、驚いて浴槽内で足をすべらせ溺れそうになった。こういう機能が個人宅の風呂に普通についているとは思ってもみなかった。子供っぽいといわれたくないので頭までお湯に入ってしまい、お湯を飲んで溺れかけたことも、驚いたことも話していない。
二人で入ったときにびっくりしなくてよかった。東城に知られたらさぞかしからかわれただろう。
時間をかけて風呂に入り、出るみると、まだリビングのソファーで東城が寝ていた。横になっていたのから、座った姿勢になったのが変化点だ。頭をおとして寝ていた。相当疲れているのだろう。
広瀬は再度彼の肩をゆすった。「東城さん」起きないので髪もひっぱってみる。
「ん」とまた言って彼は顔をあげた。
目をあけている。「おかえり」と言うのも二回目だ。今度は、腕を広瀬の身体にからませてきた。胸に顔をつけられる。息を吸っていた。「洗い立てのにおいがする。俺のため?」
バカだと思い頭を押しのけた。
キッチンに行き、氷と水だけはいつもあるのでグラスに入れる。東城の分も持っていってやる。彼は立ち上がっていた。伸びをしている。水を受け取ると礼をいってごくごく飲んでいた。
「いつ帰ってきた?」と聞かれた。
「さっきです」
「ああ、そうか。全然気づかなかった」
グラスの氷をガリガリ食べているとそっとグラスを手からとられた。
「久しぶり」うれしそうな笑顔だ。
そう日にちをたっていないだろうに、と目をそらせた。
慣れているはずなのに、こういう瞬間は苦手だ。キスされる直前とか、抱きしめられる前の伸ばされた手とか。
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