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東城は竜崎と一緒に南宿の日本一と言われている歓楽街付近のレストランに入った。個室に通される。予約をしていたのだ。
しばらくすると男が現れた。30代半ばくらいの色の浅黒い男だ。
「東城です。今日はお忙しいところありがとうございます」と東城はあいさつした。
男はいやいやと手を横に振る。「佳代ちゃんに頼まれたんじゃな、来ないわけにはいかない」そして、竜崎に目をやる。「そちらは?」
「竜崎です。東城と同じ捜査チームです」
「二人とも福岡チームか。大変だな。私は峯尾」と彼は名乗った。
南宿署の佳代ちゃんに紹介してもらった歓楽街の情報通の刑事だった。佳代ちゃんに弱みを握られているのか、単純に頭があがらないのかどちらかなんだろうな、と東城は思う。いや、あるいは、その両方か。
食事をしながら東城は峯尾に質問をした。
「この前、SMクラブでボヤ騒ぎがあったのはご存知ですか?」そういってあやめの店の名前をつげた。
「ああ。放火だろう」峯尾はうなずく。「捜査待ちだが、理由はいろいろありすぎる。あそこが、黙打会系のクラブってしってるか?」
「いえ。許可を得ているクラブだと思っていました」
「許可はずいぶん前にとっている。だから違法じゃない。黙打会がバックに入ったのはここ数年だ。地元のささやかなヤクザがケツ持ちしてたんだが経営者が代替わりしてより安定感のある黙打会に乗り換えたんだ。放火はそれが原因とも思われる」
「地元のヤクザの嫌がらせですか?」
峯尾はうなずいた。「その可能性が大きいな。だが断定はできない。今、黙打会では、跡目争いが静かにおこってるらしい」
「詳しく教えてください」と竜崎が言った。
「詳細は本庁の担当に聞くほうがいいと思うぜ。俺の知ってる範囲じゃあ、黙打会の若頭が病気で入院しているんだ。次の若頭が誰になるのかというので、争いがあるらしい。とはいうものの前みたいにドンパチやるんじゃない。そんなことしたら使用者責任で親分まで逮捕されるからな。相手方の資金源を断つとか、いいシノギを多く手にするとかそういったことだ」
「争っているのは誰ですか?」
「児玉と勢田だ。児玉は昔ながらの暴力団気質があって、配下にはやんちゃなやつが大勢いる。勢田は、そんな危ない橋はわたらない。奴はかなり商才があって、黙打会がいまみたいに勢力をのばせたのは、勢田がいたからだといわれている。本来なら勢田が文句なく跡目の候補で若頭になっていたんだが、児玉が奴の弱みに目をつけて難癖つけているらしい」
黙打会という名前には東城は嫌な予感がしていたが、やはり勢田の名前がでてきた。
「弱み?」と竜崎は聞く。
「北池署の若い刑事に惚れこんでストーカーみたいなことしてたらしいんだ」
竜崎は首をかしげる。そこで峯尾が東城に言う。「あ、そういえば東城さんは少し前まで大井戸署にいたんだろ。その刑事そっちに異動になったんだろ。知ってるのか?」
ヤクザがらみの仕事をしている部署では勢田と広瀬の話は有名なのだろうか、と東城は憂鬱な気分になった。特に、勢田が黙打会という大きな暴力団の大幹部になろうとしているのだとするとなおさらだろう。
竜崎は東城を見た。
「はい。知っています」と東城は答えた。
「警察にストーカーはまずいだろうってことに黙打会ではなってるらしい」そこで急に峯尾は笑いだした。「ヤクザも良識的なわけだ。バカバカしい話だ。いい迷惑だっただろうな、その刑事からすると、えっと、なんて奴だっけ」と聞かれる。
「広瀬です」
「そうそう。そんな名前だった」
別な話にしようと思った。「放火のあったSMクラブは勢田と児玉、どちらの系統なんですか?」
「どちらとも言えない。勢田と児玉以外の黙打会系の組のものだ。今は、勢田と児玉どっちにつくか決めかねている。だから、誰が何の目的で放火したかはすぐにはわからない」
東城は、れいあが勤めていた、近藤が写真を撮られたと思われる違法なSMクラブの話も聞く。峯尾は佳代ちゃん推薦のことだけあってよく知っていた。
「この店は、完全に児玉の店だ。児玉の弟が経営している。この店の客が殺されたのか」
「はい」
「うーん。強請って機密情報をとってこさせるまではわかるが、その後、殺しをするとはなあ。しかも、そんな殺しとわかる形で。児玉は武闘派ではあるがバカじゃない。わかりやすい殺しをしたらこのご時世まずいことは知ってる。なにかよほどの背景があったんだと思うな」
竜崎は別の写真を取り出してみせた。
「この男に見覚えはありますか?」
派手なストライプのスーツを身にまとっている男だ。監視カメラの映像のため上からの角度でやや不鮮明ではある。
峯尾はしげしげと写真を見た。
「放火があった店に出入りしていた男です。店の写真ではないです。店の子に、後で違法店に移る子で『れいあ』という名前で出ていたんですが、その女性に珍しいブランドの時計を送っていたという記録がでてきたんです。値段はそれほどでもないのですが、デザインがかわっているので販売した店がわかりました。この写真はその店の監視カメラからきました」
「どっかで見たような気がするが、すぐには思い出せないな」と峯尾は言った。
「この写真データもらっても?署内であたってみる」
「ありがとうございます。すぐにお送りします」
二人で峯尾には丁重に礼を述べた。
峯尾は帰り際に「佳代ちゃんに会ったら役に立ったって言っておいてくれよ」と言った。
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