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その夜、広瀬が仕事帰りに東城のマンションの門まで来たとき、人影がでてきた。あやめだった。見たことがない女性と二人連れだった。 「すみません、こんな夜遅くに」とあやめが言った。前に見たときとは違い、薄化粧で顔色も悪くない。一緒にいる女性は若く、髪は茶色と金色の中間くらい。痩せていた。 広瀬は、何も聞かずすぐに二人を家の中に入れた。鍵をかけ、チェーンをかける。一通り窓などの戸締りを確認した。カーテン越しに窓の外を見るが、特に怪しい人影はない。このマンションは門も建物のエントランスもセキュリティが厳しいから、すぐに侵入はできないだろう。 若い女は『れいあ』だった。怯えた顔をしている。 「ここにはどうやって?」 「二人で電車できました。一応、つけられてないかは確認しています」とあやめは答えた。 広瀬は東城に電話をしてみた。だが、彼は電話にはでなかった。そういえば、今日はかなり遅くなるというメールがきていたのだった。とにかく、電話はしたので、義務は果たしたといえるだろう。 広瀬は二人をリビングのソファーに座らせ、自分は前に座る。 「今までどこに?」とれいあに聞いた。東城たちがずっと探していたのに見つからなかったのを聞いていた。 「最初は友達の家を転々としてたんですけど、警察や誰か知らない人たちが私を探しに来ているのがわかって、安いホテルに移ったんです。でも、お金もなくなったし、ホテルにも誰かが来たみたいだったので、姉さんに連絡して」 姉妹だったのか、似てないけど、と広瀬は思った。 「あ、姉さんって呼んでるだけです」と広瀬の考えよんだようにれいあは言った。「東京に来たときから面倒みてくれたから、姉さんみたいで」 「私が、東城さんなら、警察だけど大丈夫だからと言って、やっとここに来たんです。それに、警察に相談しにいくといっても実際どこに行ったらいいのかわからなかったので」とあやめが言う。 れいあは、今までのことを説明した。 近藤は元々あやめの店でれいあの客だった。その後れいあはある男に誘われて店を変わり、さらに、その男に言われて客だった近藤を誘ったのだ。あやめの店では禁止されていたが、店の客たちとはSNSの匿名のアカウントでつながっており、お店が変わったことを連絡したのだという。特に、近藤は強く誘った。 近藤は何回か店に来ていた。しかし、その後ふっつりと来なくなり、連絡もつかなくなった。れいあを誘った男も姿をみせなくなった。あまり気にしていなかった。 だが、忘れた頃に近藤は、店にれいあを訪ねてきたのだ。そこでれいあは近藤に脅された。れいあを雇っている組織が誰なのかを聞かれたのだ。だが、れいあには近藤が脅されて機密情報を盗んだことは寝耳に水だった。 「近藤さんの写真の話はその時はじめて聞きました。お店のプレイルームの写真で、私と一緒のときだったらしいんです。だから、あたしがなにかたくらんだと思われたみたいで」 れいあは全力で否定し、機密情報の話に驚いた様子があまりにも普通だったため、近藤はれいあを信じたらしい。 「あなたにお店を移るように言った男は何者ですか?」と広瀬は聞いた。 「よく知りません」とれいあは言った。「今のお店の関係者だとは思います。誘ってくるくらいだから。時計くれたりとかして、おこづかいくれてりもしたから、いいかなって思って」 「組織とは全く関係のないはずのあなたが、なぜ、姿をくらませる必要があったんですか?」 れいあはうつむいた。 「近藤さんは、自分をはめた組織のことを調べていました」とれいあは言った。組織を調べていた近藤は、逆に組織に追われた。家にも帰れない状態だったという。所持金もほとんどなく、心身ともに疲れきっていた。 「あたし、かわいそうになって、うちに泊めてあげたんです」

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