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床には2人くらい男がうめきながら座り込んでいる。顔は殴られたのだろう腫れあがり血がでている。
東城はあわてて奥に入った。そこにも2人ほどが座り込んでいる。さらに、奥の部屋には、お店で働く女たちが隅の方に固まりおびえていた。
彼女たちは傷つけられてはいないようだった。複数あるプレイルームはSMの道具が散乱している。ローションなどのボトルは全て割られ、ベッドに、床にぶちまけられていた。
店には広瀬の姿はなかった。
「救急車は?」と竜崎が女の1人に尋ねている。彼女は首を横に振った。
「呼んだ方がいいな」と竜崎は座り込んだ男を覗き込む。「大丈夫か?」
男も首を横に振った。
「だれだ、お前ら?」と入り口付近で大きな声がした。見ると、派手なスーツをきた男が3人ほど立っていた。
端の男が東城と竜崎を見咎めている。「何のようだ?」
竜崎は身分証を提示した。「警視庁のものだ。ここで何か事件があったようだが」
「刑事?知らない顔だな」と男はいった。
警察ときいても驚きも怯えも見せず、竜崎の近くに歩いてくる。そして、竜崎が見せている身分証をしげしげと見た。彼はおもむろに胸ポケットから電話をとりだし、どこかにかけだした。
話しぶりからすると、警視庁の彼がよく知っている刑事の1人のようだった。しばらくして、にやにや笑いながら電話を切った。
「特別チームのお兄さんたちらしいな。ボスがとんでもない奴で苦労してるんだって?サラリーマンは上司を選べないからつらいな」と言う。「で、ここには何のようだ?こんな夜中に、うちのSMクラブは会員制なんでご紹介がないと入れないんだが」
「騒ぎがあったので見たら怪我人が複数いるので事情を聞いている。救急車は呼ばないのか?」
「ああ、もうじき医者がきてくれる。ヤクザはさ、救急車も後回しにされるんでね、自分の身は自分たちでなんとかしなきゃならないんだよ」と男は言った。
そして、倒れたソファーを起こすと、後から来た男にすすめた。この男がポスなのだろう。
黙って会話を聞き、当然のようにソファーにふんぞりかえった。
「襲撃をうけたのか?」と竜崎が重ねて聞いた。こんどはボスの方を見る。「ここのオーナーか?」
「オーナーはそこで伸びてるよ」とボスはあごで座っている男を示した。「俺は、オーナーの兄だ」
どうやら、児玉本人のようだった。想像していたより若い。30代後半から40代前半といったところだろう。髪を短く刈り上げてやんちゃそうな大きな目をしている。
「襲撃は誰が?」
「さあな」と児玉は言った。そして、座り込んでいる男に言った。「おい、いつまでそんなとこで座ってるんだ。こっちにきて、刑事さんにあいさつしろよ」
男が驚いたようだった。だが、彼は足をひきずりながらやってきた。
「何があったか説明しろ。いいか、こっちは被害者だからな」
児玉の弟が説明した。「黒いフルフェイスのヘルメットの男が数人、急に入ってきたんだ。ドアを壊して、無言で、全部壊していった。細身の金属バットもってた」
全員黒ずくめだったようだ。
「それで?」
「それだけだ」
児玉は肩をすくめた。
「心当たりは?」と竜崎は聞く。
児玉は、竜崎をするどい目でみた。「ある」
「誰だ?」
「勢田だ」と児玉は言った。
「勢田?」広瀬の周辺で最も聞きたくない名前だ。「だが、勢田はこういう暴力沙汰はしないんじゃないのか?」と東城は聞き返した。
「勢田を知っているか?ああ、奴は、サラリーマンみたいなツラして、事業やってる。暴力はしないでビジネスライクにものごとをすすめると思われてるらしいが、実は陰で少数精鋭の武闘集団を飼ってる。身元不明で、殺しもいとわないって言われてる。これは、俺以外でも知っている話だ。嘘だと思うなら勢田の担当刑事に聞いてみるといい。俺は、まあまあ、ケンカっぱやくて知られているが、勢田のあの部隊みたいな、陰湿な暴力はしない」と最後は甘い自己評価をしていた。
「あ、そういえば」と児玉の弟が言う。「あいつら、男を連れて行った」
「男?」と児玉が聞き返す。「客か?」
「違う。若い、男だ。裏口で何かしているのを防犯カメラで見つけて、うちの従業員が捕まえたんだ。最近、放火騒ぎがあるから、それかと思って。それこそ、勢田の差し金で放火しに来たのかもしれないから」
若い男は無言だったので、プレイルームの一室に入れ、手錠をかけて脅したのだ。「うちは、責め道具は色々あるから、部屋に入れてみせるだけで効果があることもあるから」
「で、そいつは誰だったんだ?」
「それが、全く無言で、返事しなくてな。無表情で変な感じだった。そうこうするうちにフルフェイスの黒い奴らが突然入ってきた」彼らは店の中を徹底的に破壊し、若い男を連れて去っていった。
東城は、できるだけ平静な声で聞いた。「勢田の精鋭部隊だとして、連れ去るとしたらどこに?」
「さあなあ。山奥にアジトがあると聞いたこともあるが」と児玉は答える。そして自分の弟に聞く。「その若い男は、フルフェイスたちの仲間っぽかったのか?」
「どうだろうな。わからない。きれいな顔の男だった。この辺じゃみない。あんな顔の男がいたら評判になるだろうっていうくらい整った顔だった」
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