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東城と竜崎が勢田の事務所に訪ねると、夜中というか早朝の時間帯のため、返事はなかった。 だが、何度かブザーを押していると、しばらくすると、やっとインターフォンから返事があった。門から大きな監視カメラがこちらにむいている。 東城は身分証をその監視カメラに見せてあけるように言った。「聞きたいことがある。広瀬のことだ」 しばらくすると、若い部屋住みのチンピラがでてきて、低い物腰で1階の応接室に通した。 応接セットのソファーが並んでいる。その一つに東城は座った。 「どうするつもりだ?」と竜崎は言った。彼は立ったまま部屋の中を見回している。 「広瀬を帰せという。それだけだ」と東城は答えた。そして腕時計を見た。「6時までに戻らなかったら、大井戸署の広瀬の上司に連絡をする。相応の対応をしてもらわざるを得ない。大井戸署も勢田もそんなことは望まないだろう」 「勢田を知っているのか?」 「前に、会ったことはある」 しばらくするとチンピラがお茶をもって入ってきた。そして、しばらくお待ちくださいと礼儀正しく言ってでていった。 「なあ、広瀬は、」と竜崎が何かを聞こうとした。が、そこに男が入ってくる。 急いで身なりを整えてきたのだろう。きちんとしていた。30代半ばの男で、脇にはもう1名背の高い男を連れている。 「久しぶりだな」と男は言った。名刺を差し出される。会社名と専務取締役という役職が書かれている。 「前に会ったのは1年以上前だ」と彼は言った。 東城は無言で名刺を受け取った。以前、薬で錯乱していた勢田が広瀬を襲ったときに、彼を迎えに来た若い男だった。 「東城さん。警視庁の方だったんだな」と男は言った。「で、何の用だ、こんな朝早くに、令状もなく」 「広瀬がいるんだろう。返してもらいたい。広瀬には近づかないようにさせるといっていたはずだ」 「誰がここの場所を?」 「児玉だ。児玉の店が勢田のところの若いのに襲撃されて広瀬を連れ去ったと聞いた」 「ああ」と若い男は言った。「児玉さんは最近なにかというと勢田に噛み付いてきて困るよ」 「お前たちの抗争には関心はない」と東城は言った。 「相変わらず威勢のいいお兄さんだな。どっちがお願いごとしているのかわからなくなる」と男は笑う。「こちらとしては、広瀬さんは保護したんだ。誤解されては困る」 「ここにいるんだな」 「この事務所ではないがな。勢田の私邸にいる」男は言った。「丁重に扱っているから安心しろ」 東城は再度時計を見た。「夜が空ける前に、つれて来い」 男はため息をついた。そして、内ポケットからスマホをとりだし、誰かに電話をかけた。しばらく会話を続け、東城に言った。 「じきに連れてくる。しばらく待っていてくれ」 「何分だ?」 「さあ、着替えて、車に乗せて、だから、30分くらいか。それまで茶でも飲んで待っててくれ」 「いらない。それより、急がせろ」と東城は言った。 「出された茶も飲まないとは無礼な客だな」と男はあきれたように笑った。

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