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広瀬を助手席に乗せて東城は車を出した。とりあえずマンションに向かうことにする。 運転しながら東城は広瀬に質問をしてきた。勢田のところで何があったのか、何がなかったのか。さっきまで一緒にいた竜崎の前では聞きにくい話だった。 広瀬はポツポツと話をした。裸にされて勢田と話をしたこと。USBメモリーはおそらく勢田もコピーをとったであろうこと。勢田が条件をつきつけてきたこと。後3回は会うと約束したこと。 東城は静かに話を聞いていた。 「怒らないんですか?」と広瀬は聞いた。 「怒ると思った?」 「はい」 「うーん。最近、お前に怒らないようにしようと、これでも努力はしてるんだ。それに、勢田のところで会ったお前の顔みたら、怒る気がうせた。お前があんな怖がってる顔、今まで見たことなかったからな」 広瀬はうつむいて右手で目を覆った。 服を渡されて勢田や若い男たちの前で服を着るのは裸でいる以上に屈辱的だった。勢田の舐めるような視線と若い男たちの冷ややかな視線がどちらも広瀬を傷つけた。 シャツを着た後で靴も靴下もないことに気づいた。勢田は男にもってこさせた。 そして、始めて彼は椅子から立ち上がった。広瀬をベッドに座らせると、前にひざまずいたのだ。 「勢田さん」と若い男の一人が制止の声を出したが勢田は平然としていた。 彼は広瀬の左足をとった。足をひっこめようとしたが、強い力で動かすことはできなかった。 勢田は広瀬の足を丁寧になでた。 「彰也、お前は本当に美しい。こうして見ていると、顔も身体も手も、足の小指の先まで、なにもかも、全てが完璧だ。信じられないくらいだ」 薄気味悪い笑顔を浮かべていた。彼は広瀬の足の甲にキスをした。だが、征服された気持ちになったのは広瀬の方だった。今でもあの感触を思い出すと吐き気がしてくる。 信号で車が停まった。東城は手を伸ばして広瀬の頭を軽くなでた。大きな優しい手だ。今は、その手に触れられると自己嫌悪に陥りそうだ。 「お前が、下手な抵抗をして乱暴されなくてよかった」と東城は静かな声で言った。「お前が自分を守ってくれてよかったよ」 「俺は怖がってただけですよ」 「怖がっててくれてよかったって言ってるんだ。1対多数でやりあったら、お前は腕の一本や二本なくす程度じゃすまなかった。レイプされてたかもしれない。そうならなくてよかった。お前はちゃんと自分を守ったんだ。その場で最適なことをしたんだよ」東城がそう言った。低い優しい声だ。そのほうが広瀬にはつらかった。 信号が変わり車はスタートした。広瀬は目を閉じた。 しばらくして、「泣きたかったら胸ぐらいかすけど」と東城が言った。今度はわざと明るい声だった。 「泣いたりはしません」と広瀬は言った。 「そうだよな。お前は泣いたことなんてないもんな」と東城は答えてくれた。 広瀬は背もたれに身体をあずけ、目を閉じ、じっとしていた。東城は黙っていた。

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