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大井戸署では、高田が広瀬を待ち構えていた。彼は、広瀬に手を差し出した。
「本庁の特別捜査チームからデータを預かってきているそうだな」と言われた。
既に福岡チームから連絡が来ていたのだ。
広瀬は、メモリーカードを高田に手渡した。
「読んだのか?」
「まだです」
自分のサブシステムのタブレットにはデータを入れている。
高田はメモリーカードを手の中で転がした。「昨日の夜のことは、後で報告しろ。今はこのデータのことや、本庁のチームがこっちに来るので忙しいからな。どうしても俺が聞いておかなければならないことはあるか?お前は怪我もしていないみたいだし、正直、緊急の報告が必要そうなことは何もはなかったということを強く願っているんだが」
広瀬は首を横に振った。「ありません」
「じゃあ、いい。ところで、昨日の夜、クルーズ船の会社からお前宛に電話があったそうだ。確か、小さい出版社が予約したかしなかったかみたいな話になっていたんだよな。行って、話を聞いて来い」
「はい」
「今日は、このデータ関係でほぼ全員が駆り出される。だが、お前は、福岡警視には会わせるなと課長に言われている。だから、クルーズ船の会社には一人で行け。何かわかればすぐに報告しろ」
「はい」
高田はうなずいた。いつもなら何かあると広瀬を見てはぁっと大きくため息をつくのだが、今日はそれはなかった。そんなこともできないほどピリピリしているのか、ため息をつくようなことは何もないのか、どちらだろうか。
広瀬は、クルーズ船の会社に行った。この前は、予約リストを見せてもらい、技術書の会社が予約していないと言っていると伝えたのだが、クルーズ会社は、記録以外のことはわからないと回答されたのだ。
その日は、会社の人が広瀬を待っていてくれた。前に応対してくれた予約管理の事務をしている女性だ。彼女は責任者と一緒にいた。
「あの後、とても気になって、当日の船の担当者に確認したりしてみたんです」と女性は言った。
「そしたらですね、このお客さまはこられなかったということがわかりまして」と責任者の男
が続けて言った。
「こられなかった?」
「はい。そうなんです。予約時に全額お支払いいただいていたので、特に問題にはせず、運行の責任者も気にしなかったようです」と責任者は言った。「実は、お恥ずかしい話なのですが、当日のこのキャンセルについては報告も記録もなくて。どうも、その日は天候も悪く、他にもキャンセルがでたりしまして、混乱していたのと、こなかったのをいいことに、さぼっていたりしたらしく、こちらも把握ができていませんでした」と男は言う。汗が額ににじんでいた。警察からとがめられると思っているのかもしれない。
「予約の際に記録された連絡先を再度みせていただけますか?」
「はい」責任者はプリントアウトしてくる。
技術書の会社名、担当者名、携帯電話の番号が書かれていた。広瀬は、番号をメモした。
「ありがとうございます」と礼を言う。「ご確認してくださって、ご連絡いただいてよかったです」と広瀬は再度礼を言った。
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