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数週間後、広瀬は枝川のアトリエにむかった。東城が修理が終わった車を出したのだ。 入院から意識を回復した青キヨラを逮捕したあと、佳代ちゃんがなんどか広瀬に電話をしてきた。青キヨラのことに関心があるようだった。そして、枝川に会いに行って青キヨラのことを聞いてみよう、アーティストからみた青キヨラの本当の評価を聞いてみたいと佳代ちゃんに言われたのだ。 何日か前の夜に、東城にそのことを言った。 「今、枝川に会うならアトリエいかなきゃならないけど、結構遠いぜ。ど田舎にあるから」彼は、自分のスケジュールを見た。「いついくんだ?場所わかりにくいから、車だしてやるよ」 恩着せがましい言い方だが、ついてきたそうだったのでそうさせることにした。 「佳代ちゃん、お前に連絡してくんだな。お前も、佳代ちゃんには返事すんだな」とも東城は言う。「なんだろ。佳代ちゃんってお前に気があるのか?」 「え?」広瀬はあきれた声を出した。 「それはないよな。確かに、それはない。この前、都議会議員かなんかと付き合ってるって噂聞いたし。佳代ちゃん、お前と付き合おうとするよりも、もっとやり手だよな」と東城はひとりごちている。 なんだそれ、と思った。誰に対して失礼かもわからないくらい失礼な発言だ。だが、「そうですか」と広瀬は一言答えた。それに、自分が噂に聞いた佳代ちゃんの彼氏は上場間近のITベンチャーの役員だ。まあ、東城が言わんとするやり手というのはわからないでもない。でも全ては噂だ。じかに佳代ちゃんに聞いてみないと本当のことはわからない。 そして、さらに昨日の夜、東城が出発時間を確認していたところに広瀬がもう一人行きたいといわれていると告げた。東城はため息のように返事をする。 「宮田がなんで一緒にくるんだよ」 広瀬は理由を答えられなかった。理由は聞かなかったのだ。一緒に来たいとしつこくいうものを、来るなとはいえなかった。 「宮田も休みとったのか?」 「らしいです」 「物好きだなあ。他にすることないのかよ。せっかくの休みに」と東城は言った。だけど、その後おとなしく枝川に連絡をし、明日は4人で行くと伝えていた。 だから、東城の運転する車の後部座席には佳代ちゃんと宮田が座っている。もしかして、休日に宮田と会うのは初めてかもしれない、と広瀬は思った。

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