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生まれも育ちも 3

その日の夕方、自分のアパートにいると、東城から普通に連絡がきた。 彼は夜の帰宅時間をいつも通り伝えてきた。休みの広瀬が自分のマンションにいると当たり前のように思っているのだ。 夕べのことを思い出すと恥ずかしくて顔が赤くなる。 東城に意のままにされ、感じすぎて赤ん坊のように泣きじゃくるなんて、あってはならない恥辱だ。 東城からのメールを表示するスマホさえもどこかに放り投げて壊してしまいたい衝動にかられる。 東城はどうしていつもああ意地の悪いことを思いつくのか。彼には振り回されてばかりだ。誰がマンションに戻るものかと腹立ち紛れに返信してやろうかと思ったが、結局そうはしなかった。 そもそも東城は広瀬に悪いことをしたと思ってはいないだろう。東城は広瀬に勢田のことを一切考えさせたくないのだ。特に二人だけのときには自分のことだけを考えて感じて欲しいだけなのだ。そして、それを実行しただけだ。 広瀬だって途中からは東城の意図を知りながら拒否しなかったのだ。自分の身体があんなに制御できなくなるとは思っても見なかったが。 だから、広瀬は何事もなかったように東城のマンションを訪れることにした。 いつもは広瀬が泣いたりしようものならそのことをからかってくる東城もその夜の醜態のことは一切口にしなかった。 それからも勢田が記憶の底から流れてくるのはとめられなかったが、同時に、全身を動いていた東城の指と泣いている自分の記憶もセットでよみがえるようになった。 いいのか悪いのかはわからない。いやな記憶にさらにいやな記憶が上書きしたかのようだった。 さらに、数週間の後、勢田の悪夢のような記憶の波と泣いている自分の記憶がともにひいていった。 それは別なインパクトがある出来事がおこったためともいえるのだが。

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